Steve Kaczynski & Scott Duke Kominers著「The Everything Token: How NFTs and Web3 Will Transform the Way We Buy, Sell, and Create」

The Everything Token

Steve Kaczynski & Scott Duke Kominers著「The Everything Token: How NFTs and Web3 Will Transform the Way We Buy, Sell, and Create

すっかりAIに関心を奪われてしまった数年前のホットな話題であるNFTはこんなにすごいんだ!という、NFTはこんなにすごいという騒ぎを起こして食べている(企業のNFT戦略を指南したりしている)人による本。

うん、ごめん、いきなりシニカルな言い方をしてしまったけど、一時のバカ騒ぎが収まった今だからこそ、いまでも騒いでいる人は何を言っているのか本気で興味があったところに、たまたま新刊として見かけたので読んでみた。以前読んだBobby Hundreds著「NFTs Are a Scam / NFTs Are the Future: The Early Years: 2020-2023」に比べて商売の匂いが強いけれど、実際に著者たちが関わったスターバックスのNFTプログラムのような、ただのアバターを売るだけみたいな話じゃない具体的な話があるのは良かった。

そのスタバのプログラムだけど、これまでもあるポイントカード的なものをNFTで設計しなおしたみたいな感じで、コーヒーを買ったりアプリでミニゲームをしたりしてポイントを貯めたら数量限定のNFTスタンプがもらえて(現金で買うことも可能、というかだいたいみんな買ってる様子)、それをもっていたらイベントに参加できたりグッズもらえたりいろいろ特典があるよ、みたいな。これまでのポイントカードと比べて違うのは、もらえるNFTを誰とでも自由に売り買いできる、よってNFT自体の価値が市場で上がれば売って儲けることができる、NFTを持っていることを紹介すればライバル会社がスタバから客を奪おうと有利なオファーをしてくるかも、みたいな。最後のやつはスタバにとって不利のようだけど、スタバのNFTを持っていれば他社からの優遇されるということになればスタバNFTの価値があがり、すなわちそれを売っているスタバが儲かるから大丈夫、という話らしい。また、こうしたプログラムによって本当にスタバが好きなファンがわかるようになり、ファンもスタバのNFTが人気を得れば儲かるからよりブランドに忠実になる、とか。いやいやせめてコーヒーを売って儲けてくれよって言いたい。だいたいスタバのNFTを買っている人って、スタバのファンじゃなくてNFTのファンでは(ちなみにいま二次市場を見てみたら、もともと100ドルのスタンプが250万ドルで売り出されてた…)。

NFTというかブロックチェーンやスマートコントラクトが有効そうな用途も確かにある。たとえば電子書籍を買ってもそのプラットフォームの都合で勝手に消されたりサービス自体が停止されて読めなくなるみたいな不安があるし、読み終わった本を中古として売ることもできないみたいな問題は、その本の所有権がNFTとして自分のコントロール下にあれば解決できなくもない、かもしれない(ただしプラットフォームや出版社側がそれに乗るとは思えない件)。中古の本の売買や、チケットの転売問題などは、スマートコントラクトで出版社や著者、イベント主催者らにちゃんと儲けがいくような仕組みになればいろいろいいかもしれない。ただインターネットがますますプラットフォーム企業によって囲い込まれるなか、分散型のソーシャルメディアや分散型金融、分散型の所有システムが期待されるのもわかるのだけれど、NFTファン以外の人たちに広まるようにはまだ思えない。分散型ソーシャルメディアにしても、ツイッターがあんなことになったから注目されているだけのよーな気がするし。

かねてからの疑問は疑問のままだったけど、いまこんなことになってるのね、という本来知りたかったことは知ることができた。まあ知ってなんの意味があるという気もするけれど、仮に周囲の人がおかしな投資話に騙されそうになっていたら質問攻めにできる程度の知識は身につけておいて悪くないかもしれない。