Deesha Dyer著「Undiplomatic: How My Attitude Created the Best Kind of Trouble」

Undiplomatic

Deesha Dyer著「Undiplomatic: How My Attitude Created the Best Kind of Trouble

有名大学に通う20代前半の学生たちに混じって31歳でホワイトハウスでのインターンになった黒人女性が、それを機に成り上がりオバマ政権のホワイトハウス社会秘書官を務めた経験を綴った自叙伝。

ホワイトハウスのインターンと言えばアイビーリーグなどの有名大学に通うエリート学生やワシントンの中枢にコネがある親の子どもたちが集まるものだけど、著者はシンシナティ大学を中退し、不動産業で働きながら30歳でコミュニティカレッジに入り直した異端。仕事のあいまにHIV感染予防のためのアウトリーチなどのボランティアをするなどの経験もあったけれど、いざホワイトハウスに行くと周囲はやはり自分より年下のエリートばかりで自分はここにいてもいいのかという不安に包まれる。インターン生活でオバマ大統領本人と会ったのは一度だけで、それは銃乱射事件の被害者たちと会うためにオバマが国内を移動する際にたまたま人手が足りずに呼ばれて大統領専用機エアフォース・ワンに乗ったとき。挨拶に行ったオバマに「ここにインターンがいるなんて思わなかった」と言われてパニクって「わたしなんかがすみませんいますぐ飛び降ります」と口走った、というエピソードはおもしろすぎ。

3ヶ月のインターンシップを終えて地元に戻った著者は、コミュニティカレッジに通いながら大統領が各地に向かう際に先乗りして色々準備を行う仕事を時々請け負う生活をするが、そのうちホワイトハウス内でその部署から仕事のオファーを受けワシントンDCに戻る。そこから大統領とファーストレディーの宿泊の準備をする係や後輩となるインターンたちを管理する役職などを歴任し、社会秘書官のアシスタントとなる。社会秘書官とはホワイトハウスで行われるイベントの責任者で、前任者が退任すると秘書官に出世する。フランシスコ教皇を迎えてひらいたレセプションを成功させえるなどオバマ夫妻から高い評価を受け、だんだん自分に自信を持つことができるようになったけれども、メディアでは上流階級出身ではない著者に対して「社会秘書官としては異例の人選」と騒がれるなどするたびにまた不安になる。

著者のホワイトハウスでの最後の仕事となったオバマからトランプへの引き継ぎでも、事前の打ち合わせとは異なる行動を取るトランプに「自分がちゃんと打ち合わせしてなかったって怒られるじゃん!」と不安を感じながらなんとか終わらせ、エアフォース・ワンでのオバマ夫妻の最後のフライトに同乗したうえで著者も退任。その後もホワイトハウスでの元同僚たちが政界やビジネスで新たな仕事を得ているのに自分だけうまくいかなかったりと苦労しつつ、一見キャリアで大成功をおさめたように見えるのにインポスター症候群に駆られる経験を率直に語ることで多数の講演に呼ばれるように。政府や政治でのキャリアを目指す黒人女性を支援する活動なども行っている。

ホワイトハウスの仕組みがこうなっているのか、というおもしろさはあるけど、著者は政策面や政治に関わっていたわけではないのでオバマ政権の内幕的な話にはなっていない。なんていうか、普通の人が周囲の人とうまくやっているうちにうまいこといったな、という感じだけれど、ホワイトハウス以前の職場では店舗のレジからお金がなくなっていたら白人の同僚ではなく自分だけ「なにか知ってるんじゃないのか」と問い詰められたりしたなど職場における差別も経験している著者だけに、単純によかったなあと思ってしまう。著者がインポスター症候群をどう飼いならしたのかよく分からないので同じ問題に苦しむ人たちへのアドバイスにはなっていないのだけれど、こんなに成功したように見える人でも苦しんでいるんだ、と知ることで楽になる人はいると思う。