Sara Kehaulani Goo著「Kuleana: A Story of Family, Land, and Legacy in Old Hawaiʻi」

Kuleana

Sara Kehaulani Goo著「Kuleana: A Story of Family, Land, and Legacy in Old Hawaiʻi

中国や沖縄など多数の民族の先祖を持つ著者が、ハワイ先住民だった祖母が残した土地を失いかけたことをきっかけにハワイ文化とその簒奪の歴史と向き合い、先祖の文化と土地を守ろうと立ち上がった記録。

ハワイに親戚を持つ著者が育ったのはカリフォルニア。ハワイでは裕福な白人や東アジア人の移住により物価が高く、現地人のあいだの失業率が異様に高いため、仕事を求めてアメリカ本土に移住する人が多く、著者の両親もそうだった。著者のラストネームは中国系だけれど、周囲の中国系アメリカ人と比べて濃い肌の色の著者は自分がハワイ先住民の血を引いていることは意識していたが、とくにハワイ文化について学ぶ機会もなく育ち、ワシントン・ポストの記者に。

祖母はハワイ先住民の中でも領主の家系で、かつてハワイ王国国王カメハメハ三世からマウイ島東部に土地を与えられていた。その土地は開発が行われずジャングルのままだったが、あるとき州から農地ではなく荒れ地として税金を計算することになり毎年の土地税が六倍になるという通知が。一家は毎年の税金を払うための基金を維持していたが、税額がそれだけ増えるとそれほど長くないうちに基金を使い果たし、土地を手放さざるを得ない状態に追い込まれてしまう。ハワイの未開発地は人混みから離れた場所に別荘を立てたい大富豪に人気で、最近でもアマゾンのジェフ・ベゾスやフェイスブックのマーク・ザッカーバーグらがそうした土地を買い漁っており、売りに出されてしまえば先住民の手を離れてしまうことは明らかだった。現に祖母が持っていた土地の多くの部分は、それを受け継いだ親戚によって市場で売りに出されてしまい、親戚のあいだに残されたのは一部だけ。

親戚や別の先住民に譲るのであればまだしも、土地になんのゆかりもない金持ちの別荘地になるのは耐えられない、これまでせっかく土地を守ってきてくれた先祖に顔向けできないと感じた著者は、親戚らと相談し、税率を下げて土地を守るための奮闘をはじめる。未開地だから税率が高くなるというなら農地にしたり家を建てればいいのだけれど、それには莫大な資金が必要だし、今後農地や家を維持していく費用もばかにならない。また親戚のなかに実際にその土地で農業に従事したり家に住もうという人がいないのであれば、誰か人を雇って管理してもらう必要もあり面倒で現実的ではない。どのようにして先祖の土地を守るか考えるうちに、どうしてそれが守られなければいけないのか考え始めた著者は、仕事を休んで(ワシントン・ポストを退社して)ハワイに通い、先住民たちがどのようにして白人たちによって国を併合され、土地を奪われ、文化を破壊されてきたのか、そしてそれにどう抗ってきたのか学ぶとともに、ハワイ語やフラダンスの教室に通うなどして自分のルーツであるハワイ先住民文化を知ろうとする。でも自分の子どもにもそれらを習わせようとしたところ、最初は言うことをきいていたけどそのうち「いやお母さんにとってそれが大切なのは分かるけど、わたしは別に好きじゃない」とか言われるあたりリアル。そのうち分かってくれるといいな。

タイトルは「責任」を意味するハワイ語で、ゴミ出しの順番みたいな日常的な場面でも使われるらしいけど、本書では先祖から受け継いだものを将来の世代に伝えるといった深い意味で使われている。ハワイに対する植民地化・併合の歴史と著者の個人史、さらには複雑な背景を持つ子どもたちに何を伝えていくのかといった話まで広がる、とても大事な本。