Rachel Corbett著「The Monsters We Make: Murder, Obsession, and the Rise of Criminal Profiling」

The Monsters We Make

Rachel Corbett著「The Monsters We Make: Murder, Obsession, and the Rise of Criminal Profiling

犯罪捜査において犯罪者の心理分析を用いるプロファイリングの科学史とその現代における問題についての本。ライターの著者が自身の家庭で起きた悲劇について理解しようとするところから始まり、心理プロファイリングの発達とその先に生まれた予測的防犯プログラムの弊害について扱っている。

20世紀後半のアメリカで心理プロファイリングの研究が進んだのは、複数の州を跨いで殺人を繰り返す連続殺人犯に対する社会的関心が高まったことの結果。従来の犯罪捜査の手法では動機を解明できないような猟奇的な犯罪が注目を集めると、犯人に特有の心理状況を分析し犯人像を言い当てると称する心理プロファイリングに予算が割かれる。実際のところ、連続殺人犯の逮捕に繋がっていたのは従来の捜査手法によるものがほとんどでありプロファイリングはそれほど役に立たなかったが、失敗したケースは忘れ去られ、部分的に犯人像を的中させた時だけ大々的に宣伝されたので、心理プロファイリングは評判を集める。

もともと例外的な連続殺人犯や猟奇犯を分析するために広まった心理プロファイリングだが、民主・共和両党が競うように推し進めた「犯罪との戦争」政策のなかで、より一般的な犯罪についても犯罪を犯す危険がある人をデータ分析によって特定することにより犯行を未然に防ぐことができる、という考えに拡張される。分析のもととなるデータは実際には犯罪の危険性ではなく逮捕されたり有罪判決を受ける可能性だし、将来犯罪を犯す危険要因として指摘されたものは、親の離婚や早逝、貧困や暴力・虐待にまみれた生育環境など本人の責任とはなんの関係もないもの、むしろカウンセリングなど支援の対象とすべきものも多かったが、そうした要因を多く抱えた子どもたちが幼いうちから「将来の犯罪者予備軍」として重点的に監視され、頻繁に持ち物検査されたり些細なことで難癖をつけられて逮捕されるなどした結果、学校に通ったりまともに就職してまっとうに生きるチャンスをはじめから奪われている。

犯罪捜査に使われる心理プロファイリングは警察による人種的偏見に基づいた差別的な行為としての人種プロファイリングとは似て非なるものだとされているが、本書はその両者が連続しているものであることを指摘している。現在、心理プロファイリングより手軽で客観的に見える手法として本人の過去の行動だけでなく周囲の人たちとの社会的繋がりや住んでいる地域までデータとして読み込んで犯行の危険を分析するアルゴリズムの採用が各地で採用されているが、もともと法を侵さずに生きるための機会が平等でないこと、差別的な警察や司法がそもそものデータを生み出していることなどを考えると、表面だけを取り繕った人種プロファイリング・階級プロファイリングの変形でしかない。

本書ではテッド・バンディやユナボマーら連続殺人犯とされた人たちの背景やかれらが逮捕されるまでの経緯も語られ、プロファイリングは言われるほど科学的な捜査方法ではないという事実から、現在より広く採用されている予測的防犯やAIを使ったアルゴリズム的刑事司法などの問題点の指摘に繋げる良書。