Adam Kucharski著「Proof: The Art and Science of Certainty」

Proof

Adam Kucharski著「Proof: The Art and Science of Certainty

数学者で疫学者の著者が、数学における証明の手法を説明しつつ、実社会においてなにかが真実であると示すことの難しさを語る本。

本書は序盤でモンティ・ホール問題を取り上げるが、大論争を呼んだモンティ・ホール問題への回答の解説や証明を試みるのではなく、自分が数学者だとわかるとモンティ・ホール問題を説明してくれと何度も頼まれたが何回やってもうまく説明できた試しがないと著者は言う。数学は客観的な事実を証明できると言われているがそれでも数学者だってミスをするし仮に証明されても周囲が理解できなかったりするし、ましてやCOVID-19の特性のような問題ではどんなに真面目に研究しても完全な証明は難しい。完全に証明されてはいない、一部はのちに間違っていたと分かるようなものを真実として広めようとした結果、世間は公衆衛生当局に不信感を抱き、陰謀論が蔓延してしまった。

本書は社会が公衆衛生の問題などについてより良く理解し、あるいはより良く疑って情報を吟味できるようにするために書かれたようなのだけれど、最後まで読むと結局データリテラシーをつけよう、サイエンスコミュニケーションは不確かさを正直に伝えよう、的に終わってしまっていて、リテラシーがどうという段階ではないんじゃ?と思ってしまう。数学における証明の歴史や確率論の話、裁判における有罪判決の基準、アブラハム・リンカーンが奴隷制の正当性を数学の証明と同じように証明しろと対立候補に迫る話(無茶振り過ぎる)など、それぞれの部分はおもしろいのだけれど、「みんながこの本を読んで賢くなろう」というのは解決にならないと思うの。