Mx. Sly著「Transland: Consent, Kink, and Pleasure」

Transland

Mx. Sly著「Transland: Consent, Kink, and Pleasure

FTXトランス・ノンバイナリーでBDSMやキンク(フェティッシュ)を題材としたパフォーマンスアートを行うカナダ人の著者による自叙伝。

「この自叙伝は成人した読者を対象としています」とのことわり通り、序盤から縄を使ったプレイやマミフィケーション、エイジプレイなどの描写が連続するので読者を選ぶけれど、性的同意や性的主体性、欲望と現実について丁寧に考えているのである意味安心できる。ただし子どものころに起きたことをふくめ、性的同意が尊重されなかった経験についても触れられているので注意。こういう内容が含まれているので注意、というリストに「ドナルド・トランプへの言及」とあるけど、探してみたところ一箇所「トランプが大統領になって一年ほどたった頃」という記述があるだけだった。

著者はサブミッシブであり縛られたり叩かれたりするのを好むけれども、だからこそプレイの内容やその限界をあらかじめはっきりさせる。どういうプレイに同意するかという話をするなかで、「褒めることも含め外見について一切口にしない」「嘲笑されるなどの恥辱プレイはしない」など著者自身のジェンダーやボディイメージ、トラウマに関わるものから、「セーフワードは使わない、自分が嫌だと言ったらそれは常に文字通り嫌だということだ」という宣言まで、自分がなにを望みなにを望まないのか分かりやすく開示しそれを守れる人だけを相手にするのはすごく参考になる。BDSMパーティの中には室内の状況をモニターし、適時縛られたり叩かれたりしている人にアイコンタクトを取って「大丈夫?」と確認している係員がいることがあるというのはすごい。

著者はレズビアン&トランスのキンク・シーンに主に参加していて、そこでは性暴力や性的同意についてのかなり高度な認識が共有されているけれど、異性愛者か同性愛者かに関わらずシス男性が関わるパーティに参加すると形式的な合意を口実とした暴力が行われる危険がより高く(レズビアン&トランスのシーンでももちろん暴力はあるけど)、著者はそれを警戒するのだけれど裏切られることもある。またレズビアン&トランス系のシーンで出会ったパートナーには性労働者も多く、かれらとの関わりのなかで著者は性労働者が置かれている窮状と、私的なプレイでは自分と相手の性的・身体的なバウンダリーを尊重できている性労働者のパートナーが、仕事でシスヘテロ男性を相手にすると突然バウンダリーが押し戻されたり突破されるのを受け入れてしまっていることにも気づく。それで結局別れることになってしまうのが悲しい。

最初に書いたように、序盤からいきなり具体的なプレイの描写が連発するけれど、そこから子ども時代の経験や著者自身のジェンダーやセクシュアリティの変遷が語られていって、引き込まれる。BDSMの合意あるパワープレイだけでなく性暴力についても書かれているのでそのあたりが大丈夫なら読んでみて。ところでジュディス・バトラーせんせーの新刊「Who’s Afraid of Gender?」の表紙はノンバイナリー・フラッグの色だったけど、本書の表紙の緑・白・赤・黒はなにか意味があるの?わたし分からない…