Maxwell L. Stearns著「Parliamentary America: The Least Radical Means of Radically Repairing Our Broken Democracy」

Parliamentary America

Maxwell L. Stearns著「Parliamentary America: The Least Radical Means of Radically Repairing Our Broken Democracy

比較憲法学者の著者が分断の進むアメリカ政治を是正するための3つの制度改正・憲法修正を提案する本。ラディカルな改革だけれどアメリカの歴史的背景と政治文化を踏まえた最小限の改革だと著者は主張する。

アメリカ政治が両極に分断されているのは、勝者が総取りする選挙制度により二大政党以外の政党が育たず、またそれぞれの政党のなかで行われる予備選挙によってより極端な候補が力を得てしまう状況が原因だと著者。現状とくに危険なのは、トランプによる民主主義の破壊の歯止めとならない共和党の右傾化だが、中道リベラルの著者の立場からはバーニー・サンダースAOC率いるスクワッドのような民主党内における左派勢力の台頭も危険要因。また党派的なジェリマンダーによって選挙結果は両党による中間層の奪い合いではなくあらかじめ勝ちが決まった党内での純化競争によって決定されてしまうようになってきている。

二大政党制のもとでは、そのどちらの政党にも属さない第三党や無所属の候補が当選するチャンスはほとんどなく、そうした候補が一定以上の支持を集めることはその候補と支持層が重なる二大政党候補を不利にしたり(2000年大統領選挙における緑の党のラルフ・ネーダーなど)、どちらの候補の利益になるのか不透明なまま予測不可能な影響を与えたり(1992年大統領選挙のロス・ペロー、2024年大統領選挙のロバート・ケネディ・ジュニアなど)してしまう。また、第三の候補を支持する人たちもそうした結果を恐れ、本来投票したい人ではなく二大政党の候補のうちよりマシな方に投票してしまうため、第三政党は一向に育たない。現在アメリカではそうした有権者たちの不満を解消する手段として選好投票をはじめとした選挙方法の改革が各地ではじまっているが、結局は二大政党の候補が勝ち進むだけであり、また候補者が増えれば有権者の負担が激増するなどの問題もあると著者は指摘。

それに対し著者が主張する第一の改革は、まず下院の定員を現在の倍にして有権者が選挙区と比例代表制の二票を投票し、現行の各選挙区による当選者とともに州ごとに比例代表制によって各党の当選者数を決めるというもの。選挙区で当選した人と別に比例代表でも同じ人数の当選者を出すというのではなく、各党からの当選者の総数を州ごとに比例代表制で決めるというのがポイント。たとえばワシントン州では現在10の選挙区がありそのうち8選挙区で民主党が議席を獲得しているけれど、それぞれの選挙区で当選した議員に加えて20の議席を比例代表制によって各党に分配することになる。仮に民主党と共和党がそれぞれ比例代表で4割ずつ得票し、第三・第四の政党がそれぞれ1割ずつ得票した場合、20議席のうち4割の8議席はそのまま選挙区で当選した民主党候補のものとなり、共和党は選挙区で当選した2人に加えて6人が比例投票リストから当選、さらに第三・第四の政党からもそれぞれ2人ずつが当選する。こうした制度改革により、二大政党以外の政党が議席を獲得できるようになると同時に党派的なジェリンマンダーの効果を減らし、各政党が予備選挙における純化競争より他党との支持層の取り合いを目指すようになる。

第二・第三の改革は、そうして選ばれた下院が4年ごとに大統領を選出し、また大統領にふさわしくない人物を罷免する権限を持つというもの。こういうと大統領制から議院内閣制への移行というようにも見えるけれど、4年ごとの指名や大統領の権限、大統領が辞任したり罷免されたあとの後任の序列などは現行制度のままであり、現行制度と議院内閣制の中間といったかたち。第一の改革は二大政党制から多政党制への移行を実現することを前提としており、大統領選出をめぐってはいくつかの政党が連立する必要が生じるが、大統領の罷免にはもともと連立に参加した政党のうち最低1つを含む下院全体の6割の賛成を必要とし、単なる政策的な不一致ではなく大統領による不正行為や国の評判を貶める行為、デマの拡散などの理由も必須。現行の弾劾制度もいまのまま残されるが、クーデター未遂を起こしたトランプでさえ有罪とならなかった弾劾裁判の実効性には疑問があり、それより緩い基準で大統領の罷免を可能にしようというもの。

こんな改革、実現するわけねーじゃんって普通思うわけだけど、比例代表制によって政党ごとの当選者数を決めるのにわざわざ現行の小選挙区制も残すという著者の提案からその真剣さが分かる。小選挙区制の温存を著者が提唱している理由は、ぶっちゃけ現行の制度で勝ってきた現職議員たちを納得させるにはかれらの議席は大丈夫ですよと保証する必要があるというもので、それ以外とくにない。しかしそれだけで納得させられるようには思えないし、多党化・分極化解消の流れは決して現職議員たちには歓迎されないだろうし、政党としても二大政党の一つから多数ある政党のうちの一つとして連立協議を迫られるのは嫌がるはず。おもしろい提案ではあるけどやっぱり無理だなと。