Margeaux Feldman著「Touch Me, I’m Sick: A Memoir in Essays」
ノンバイナリーでフェムな著者がトラウマ、慢性疾患、ディスアビリティ・ジャスティス、クィアな関係における衝突とケアについて語るエッセイ集。
著者はインスタグラムでトラウマと癒やしに関連したミームを掲載する人気アカウントを運営していて、最近インフルエンサーが書いた内容が薄い本が増えてるなーと思って見くびってたけど、本書はそうした軽い企画モノではない。「The Right to Sex: Feminism in the Twenty-First Century」のアミア・スリニヴァサンなどフェミニズムの本や、リチャード・シュワルツの内的家族システム理論や「Healing the Fragmented Selves of Trauma Survivors: Overcoming Internal Self-Alienation」のジェニーナ・フィッシャーなどの複雑性トラウマとカウンセリングの理論、ミア・ミンガスらによるディスアビリティ・ジャスティスの議論など、わたしの関心領域と重なるトピックがきれいに繋ぎ合わされ、著者の経験とともに語られる。
本書で特に良いと思ったのは二点。まずは規範的な女性性の反復ではないクィアなアイデンティティとしてのフェムを、個人の自己決定や自立ではなく協同的な助け合い・支え合いに向けられたオリエンテーションとして、ディスアビリティ・ジャスティスが目指す未来性へと繋げる部分。もう一つは、トラウマを抱えたクィアな人たち同士が虐待とまでは言えないまでもお互いを傷つけてしまう構図に向き合い、その打破を目指す最終章。それ以外にもさまざまなトピックを扱いつつ、フェムの倫理が展開されていく。
最近よくあるインフルエンサー本の一つだと思って読む前は大して期待していなかったのだけれど、内容はしっかりしていて、ぐんぐんと引き込まれた。今年これまでもっとも驚いた本の一つで、今年もっとも読まれるべきクィアな本かもしれない。