Edafe Okporo著「Asylum: A Memoir & Manifesto」

Asylum

Edafe Okporo著「Asylum: A Memoir & Manifesto

ナイジェリアで生まれ育った著者が自分がゲイだと自覚し、地元を逃げ出してたどり着いた首都アブジャで自分を受け入れてくれるコミュニティと出会うも、反同性愛法が制定されるなどホモフォビアが強化されるなか、ゲイであることがばれて集団暴行を受けるなどして、アメリカに亡命した経験を語った本。出版社ちゃんと仕事しろよって思うくらいタイトルも表紙も地味で油断してたけど、久しぶりにめっちゃ揺さぶられた本。まだ5日残ってるけど今月のわたし的読書大賞受賞の最有力候補。

著者は子どものころから男の子たちの集団に馴染めず、女の子たちに混じって遊んでいたせいでいじめ被害を経験。それでも勉強を頑張って栄養士の資格を取るけれど、男性との出会いを求めて使ったデーティングアプリで「同性愛者狩り」にあい身ぐるみ剥がされたり、神父になれば結婚しなくても誤魔化せるし隠れて男性と付き合えばいいかと思いつつあった時に自分よりかなり年上の隠れ同性愛者の神父に出会ってこのように一生を生きたくはないと思い、自分を受け入れてくれるコミュニティを求めて首都アブジャへ。そこではかれのような若者を受け入れて独り立ちできるまでの住居や食事を与えてくれるコミュニティと出会うものの、同性愛者排斥が広まるなか危険は増していった。26歳の誕生日の前日、著者はかれが同性愛者であることを知った暴徒の集団に襲われ殺されかけるも、たまたま居合わせた人に命を救われる。

著者は栄養士としての仕事を求めていて、同性愛者支援の運動をしたいとは思っていなかったけれども、必要性にかられてそうした活動に力を入れていく。しかしナイジェリアは2014年に反同性愛法を制定、同性愛行為をした者だけでなく、同性愛者を擁護したり支援した人も処罰する内容で、これにより家族にすら頼ることができなくなった。危機感を募らせるなか、著者は欧米の団体により自分が同性愛者の権利を守る活動によって表彰されることをネットで知ったけれども、これは自分がナイジェリアの法律に違反していることを大々的に宣伝されたようなもので、数十年の投獄か死が迫っていることを実感、自由の国として憧れていたアメリカへの脱出を試みる。

観光ビザでアメリカの空港に到着した著者は、しかし入国審査官から「移住の意思がある可能性がある」として入国を拒否され、ナイジェリアへの帰国を命令される。帰国すれば良くて逮捕、悪ければ殺されると思った著者は亡命の意思を表明するが、そんなかれを待っていたのは、民間企業が経営する収容所に入れられ名前ではなく数字で呼ばれるような、自由を求める亡命希望者がアメリカに抱く憧れを打ち砕くような非人道的な扱いだった。アメリカ政府は近年「同性愛者に対する迫害」から逃れるための亡命を認定する方針になっており、また、国際条約により亡命希望者は「とくに理由がない限り」亡命の可否が決まるまで収容するのではなく保釈されるべきだと決まっているのだけれど、「逃亡の可能性がある」という亡命希望者ならだいたい誰にでも当てはまる理由によって、収容が基本となっている(そしてそれが民間業者の利益に繋がる)。家族に事情を説明することもできず、ナイジェリアへの強制送還に怯えながら暮らした6ヶ月間の厳しい収容経験ののち、支援団体が派遣したボランティア弁護士の協力によって亡命は認定され、自由の身となる。

しかし自由になってからも大変。収容所から着の身着のままで釈放された著者は、門を出た瞬間から異国の地でホームレスとなった。どこに行けばいいのか困っていると、また別の支援団体の人が現れ、とりあえずホームレスシェルターに連れて行くからついて来いと言う。この団体はとくにかれを助けるために来たわけではなく、毎日自由になった収容者が門の前で途方に暮れているのを知っているので巡回しているとのこと。ほかにも多数の民間団体やボランティアに支えられて、いまでは自分と同じような境遇にあるLGBTの難民や亡命者たちを支援する活動をしている。

アメリカの宗教右派と連動しているナイジェリアのホモフォビアの激しさや、自由や安全を求めて亡命して来る人たちに対するアメリカ政府の非人道的な仕打ち、そして本来ならアメリカ政府が行うべき支援を行っている民間の活動など、それだけでも読む価値十分、というかお釣りが来る内容なんだけれど、本の終盤で著者はものすごいことを指摘する。というのも、かれはナイジェリアで差別や暴力、とくに警察による逮捕や私刑を恐れつつ生きてきて、同性愛者が自由に生きることができるアメリカに憧れてきたけれども、アフリカで住んでいるうちはそのアメリカにおける人種差別についてまったく理解していなかった。しかし実際にアメリカに来て、アメリカ社会の人種差別を経験し、またアメリカに住むほかのアフリカ系移民や黒人たちと関わるうちに、ナイジェリアの同性愛者たちとアメリカの黒人たちの経験はおそろしいほど共通している、という事実に気づく。差別や偏見に晒され、警察による恣意的な暴力が頻繁に起きているのに、その責任はほとんど問われない。かれは同性愛者としては自由になれたけれども、黒人ゲイ男性としてはまだ自由になれていない。

間違いなくここ数ヶ月で一番揺さぶられた本。プライド月間にぜひ読まれて欲しい。著者が創設した、LGBT難民・移民たちの声を届ける団体Refuge Americaにも注目したい。