Caleb Gayle著「We Refuse to Forget: A True Story of Black Creeks, American Identity, and Power」

We Refuse to Forget

Caleb Gayle著「We Refuse to Forget: A True Story of Black Creeks, American Identity, and Power

もとはアメリカ南東部の先住民で南西部に徒歩で強制移住させられたクリーク(マスコギー)族の一員であり同時に黒人でもある人たちがたどった歴史と現在についての本。クリークはチェロキーなどとともにキリスト教と中央政府、私有財産制や黒人奴隷制など白人文化を受け入れた結果「文明化された五部族」というめっちゃ(クリークにも他の部族にも)失礼な呼称を受けた部族の1つで、黒人を奴隷として所有すると同時に、クリークとの婚姻などを通して自由な黒人もクリーク市民として受け入れた歴史をもつ。かれら黒人クリーク市民たちのなかには部族の重要な地位に就くものもいて、その子孫はいまも存続している。

現在のオクラホマ州に強制移住させられたクリークたちは、南北戦争において内部での分裂を抱えつつも、南部が勝利したらクリークの国家建設を支持するという約束を得て南部に加担した。しかし南部は敗北し、それを口実に北部は過去にクリークがアメリカ合衆国と結んだ条約を無効化、クリークに与えられた土地を奪い白人移住民に譲り渡すために、クリーク人口の登録を進めた。連邦政府はクリーク市民たちが「どれだけクリークなのか」血の割合を記録することで、将来的に「十分に血が濃い」クリーク人口を消滅させ、土地を奪うことを狙っていた。この際、それまでクリークによって奴隷として所有されていた黒人たちもクリーク市民として認定されるようになったけれど、同じ市民でありながら書類のうえでは「解放奴隷」(フリードマン)としてほかのクリーク市民より低い扱いを受けた。また奴隷ではなかった黒人たちも、実際には先祖にクリークの血が入っていても外見だけをもとに白人の役人によって「解放奴隷」と判断されてそのように扱われた。

それから1世紀たった1979年、クリーク族は憲法を改正し、市民権を「クリークの血を引いていると書類によって証明できるもの」に限ると規定、一方的に「解放奴隷」の子孫から市民権を剥奪した。クリークは主権国家であり自国の市民権を誰に与えるか決める絶対的な権利がある、との主張だが、これにより解放奴隷の子孫だけでなく、書類上では「解放奴隷」であっても実際にはクリークの血を引き、かつてクリークの指導者だった人たちの子孫である黒人クリークたちも市民権を失った。これは南北戦争を終結するための条約で決めた条件を反故にするものであり、いまでも抵抗は続いている。

この本に書かれているのは、クリークと白人たちとの複雑な関係と、そのあいだで翻弄されてきた黒人や黒人ミックスの人たちの存在だ。現代的な感覚では、黒人を自由な市民として受け入れる一方で奴隷として売買もする、という状況がよく理解できないし、強制移住で押し付けられた土地を今度はまたクリークから取り上げるためにアメリカ政府が押し付けた「血の割合」登録が黒人クリークたちを排除するために使われ、それに対してアメリカ政府が黒人クリークの権利を守るために介入しようとしているなど、植民地主義と黒人差別が複雑に絡み合ったしわ寄せが黒人クリークたちに向かっている。同じような状況にあったチェロキーでは近年、一度取り上げた黒人チェロキー子孫の市民権を復活させる方針になっており、クリークやほかの部族もそれに続いて欲しい。