Destin Jenkins & Justin Leroy編「Histories of Racial Capitalism」

Histories of Racial Capitalism

Destin Jenkins & Justin Leroy編「Histories of Racial Capitalism

Cedric Robinsonが1983年に出版された古典的名著「Black Marxism: The Making of the Black Radical Tradition」で分析し、ここ数年ふたたび注目を集めている「人種資本主義」という概念をブラック・ダイアスポラの経験に加えアジア人やアメリカ先住民などの経験を交えつつ現代的にアップデートするエキサイティングな論集。2021年刊。

人種資本主義とは、従来のマルクス主義によるヨーロッパ中心的な資本主義の歴史の記述を批判し、資本主義が人種主義やナショナリズムと共に発生しそれらを基本原理として生成しつつ取り込んできた事実を見据える考え方。人種主義やナショナリズムは資本主義のなかでただ単に労働力搾取のための便利な道具として使われつつ最終的には市場がもたらす均一化によって無効化されるのではなく、人種主義やナショナリズムそのものが資本主義と根底の部分で結びついている。

本書に掲載された九章では、信用や保険、債権、差し押さえ、投資ファンドなど資本主義を潤滑に回すためのさまざまな仕組みが奴隷貿易や植民地主義に基づいているという歴史的経緯だけでなく、自由労働と奴隷労働という区分が人種的に形成されるとともに人種そのものを形成してきたことなど、さまざまな形で人種資本主義が資本主義の単なる一形態ではなく資本主義の唯一の形態であったことを指摘する。黒人奴隷制の廃止後のイギリス植民地やアメリカで債務労働をさせられてきたインド人や中国人、フィリピン人らの労働についての章はとくに勉強になった。