Michael Holding著「Why We Kneel, How We Rise 」

Why We Kneel, How We Rise

Michael Holding著「Why We Kneel, How We Rise

その静かなプレイスタイルから「囁きかける死ウィスパリング・デス」という中二病異能力バトル的な通り名ニックネームで知られる往年のジャマイカ出身の元レジェンド級クリケット選手の著者が、ウサイン・ボルト、大阪なおみ両氏ら黒人や先住民系の一流アスリートへのインタビューを交えながら人種差別の歴史と現在について綴った本。2020年7月にクリケットの国際試合のテレビ中継にコメンテータとして出演した際、当時起きていたブラック・ライブズ・マターの運動について話題を振られてはじめて自分が経験したり目撃してきた人種差別について公の場で語り話題となった。自分がこの歳になるまで反発を恐れてずっと発言をためらってきたことを堂々と発言しているコリン・キャパニックや大坂なおみら若い世代のアスリートに対する称賛とともに、人種差別がどのようにして続いてきたのか多くの人や書物から学んで書き上げたのがこの本。

インタビュー部分もおもしろいのだけれど、それを主体にした本というよりは、著者自身の語りのなかにそれと関連したインタビューを入れるスタイル。実際に黒人のトップアスリートとして国際的に活躍してきた人がインタビューしていることで、よりフランクに話を聞けているというのはあると思う。アメリカやイギリスの人種差別の歴史について多くのページを割いていて、あまりそういった本を読んでいない人、とくに著者のクリケット選手としての凄さをしっているファンに伝えるには良いと思うのだけれど、歴史の専門家ではないのでところどころ雑に感じるところはあった(たとえば第2次世界大戦中の米国政府による日系人収容政策について触れられたたった1つの段落に、少なくとも2つ間違いがあった)。またスポーツにおけるメリトクラシーへの評価やアファーマティブアクションについての否定的な見解など、これまでの人種差別に関する議論を踏まえるのではなくナイーヴな個人的直感に基づいているように見えるところもあった。