Chloe Maxmin & Canyon Woodward著「Dirt Road Revival: How to Rebuild Rural Politics and Why Our Future Depends On It」
2016年の選挙ではトランプがクリントンに大差を付けて勝ったメイン州のど田舎の選挙区で州議会議員に立候補し当選した20代の若い理想主義的な民主党の女性候補者と、その親友で彼女の選挙参謀を務めた同じく20代の男性による本。支持層が都市に偏ってしまったリベラルや民主党が、あるいはほかのどの政治勢力であっても、田舎でふたたび支持を広げ選挙に勝つための秘訣がたくさん詰まっている。
著者らは大学時代に気候変動に関係した運動に参加し、2015年に大学を卒業したあと2016年にはバーニー・サンダース大統領候補の予備選挙で経験を積む。2018年の州議会選挙ではトランプがクリントンに大勝した選挙区で共和党候補を破り当選、メイン州では史上最年少の下院議員として注目を集める。さらに2020年には党指導層に請われてより大きな選挙区である(やはり共和党多数の)上院選挙に出て当選。民主党から紹介されたコンサルタントを断り、ウェブサイトやビラのデザインを自分たちで行ったり、ボランティアに動画編集を任せる、サンダースの選挙運動の繋がりを通して多くのボランティアを動員して州内のどの候補より多くの有権者と対話するなど、オリジナリティのある選挙運動によって、トランプ支持者や共和党支持者の多くからも支持を集めた。2020年の選挙では、立候補を決めた直後にコロナ危機が起こったけれども、選挙組織を使って家から出られない高齢者らを支援するミューチュアル・エイド(相互扶助)の活動をしたけれど、ほかの候補者が真似しようにも若いボランティアが大勢いる著者らの陣営にしかできなかった。
著者らは民主党組織からの支援も受けていてそれには感謝しているのだけれど、同時に民主党が田舎で勝てない理由を厳しく指摘している。それによると、民主党は州単位で勝敗が決まる大統領選挙や上院選挙、知事選挙などに集中しすぎて、「勝てる州」と「勝てない州」を峻別して「勝てない州」にリソースを投入しようとはしない。民主党への支持が少ない地域、とくに人口が少ない田舎で支持を広げようとするより、都市に集中する自党の支持層を一人でも多く投票所に行かせることに注力するほうが効率がいいという判断から、田舎の人たちは民主党から完全に無視されてしまう。田舎では家と家が離れているから、都市なら100軒の住宅を個別訪問できる時間で30軒しか行けない、というのは確かなのだけれど、かといって一度も自分たちの声を聞こうとしない党に有権者は親しみは感じない。また、党が抱えている選挙コンサルタントたちはそれぞれの地域の特色や文化に理解がなく、均一的なビラや広告を作成してしまい、かえって有権者たちを遠のけてしまうことも。
著者らがなによりも重視するのは、ヴァージニア州下院議員で3回連続当選中のDanica Roemが書いた「Burn the Page: A True Story of Torching Doubts, Blazing Trails, and Igniting Change」と共通していることだけれど、政治的に不利な状況であっても自分を偽ることをせず、ありのままの自分をさらけ出すことだ。コンサルタントが作ったイメージや目の前にいる有権者に媚びるような行動は見透かされ、関係性を築くことには繋がらない。Roemと同じく、この本の著者らもトランプ支持者をはじめ異なる政治的意見の持ち主に正面から向き合い、話を聞き、反対者を中立者に、中立者を支持者に変えていく。また、全国的な政治課題ではなくローカルな問題を徹底して訴え、政治信条に関係なく地域の住民たちの生活が目に見えて向上させるような政策に集中しているのも共通点。
John Della Volpe著「Fight: How Gen Z Is Channeling Their Fear and Passion to Save America」が取り上げているのは著者らより少しだけ若い世代の社会運動だけれど、気候変動への懸念とサンダースが訴える経済格差の問題をきっかけに運動に参加した多くの若い人たちの力が変化を生んでいる、というテーマはこの本と共通している。わたしも昔メイン州の田舎に住んでいたことがあるので、かれらが訴える「見捨てられた田舎」からのリベラルの再生には期待を感じた。