Federico Finchelstein著「The Wannabe Fascists: A Guide to Understanding the Greatest Threat to Democracy」

The Wannabe Fascists

Federico Finchelstein著「The Wannabe Fascists: A Guide to Understanding the Greatest Threat to Democracy

ファシズムとポピュリズムの専門家であり2020年10月にはトランプによるクーデターの危険を警告した著者が、それらがどう違うか説明するとともに、トランプをはじめファシズムとポピュリズムの中間に位置するファシストの「ワナビー」の登場について論じる本。

著者によると、ファシズムには極端な排外主義やレイシズム、嘘に基づいたプロパガンダ、政治的暴力、そして独裁制の四つの特徴を持つ。それに対しポピュリズムは政治的分極化を進めるため支持者を煽り、政権を取った際には強権的になることもあるが、いちおうは民主主義や人種平等、暴力の否定などといった建前を維持し、選挙で選ばれることを望む。またポピュリズムは右派にも左派にもあるがファシズムはその排外主義やレイシズムから右派に限られており、左派の独裁主義(たとえばスターリニズム)は自分たちの独裁は共産主義実現のための一時的なものであるという建前を(一応)掲げていたのに対しファシズムは恒久的な独裁を目的化する。

トランプやボルソナロ、ドゥテルテ、モディら現代の「ワナビー・ファシスト」たちは、ファシズムの特徴のうち最初の三つまでは実行しながら、ついに四つめの独裁制の樹立には至っていない。トランプやボルソナロは選挙で敗北したのち、支持者を扇動するなどして暴徒によるクーデターまがいの事件を起こしたとはいえそのままクーデターを強行することを躊躇したが、本物のファシストならそこで留まったりはしなかったと著者は言う。しかしトランプが民主主義を否定し選挙結果を覆す直前まで行ったのは確かで、「ワナビー」というよりは単に「失敗したファシスト」なのでは?という気もする。

アルゼンチン出身で独裁時代を経験した著者だからこそ、世界中からさまざまな例を集め、比較し、第二次世界大戦以来もっともファシズムの危険が高まっていることを著者は警告しており、参考になる。