Cass R. Sunstein著「How to Become Famous: Lost Einsteins, Forgotten Superstars, and How the Beatles Came to Be」

How to Become Famous

Cass R. Sunstein著「How to Become Famous: Lost Einsteins, Forgotten Superstars, and How the Beatles Came to Be

「有名になる方法」というタイトルだけど、実際のところ狙って有名になれるものでもないし、誰がどういう経緯で有名になるか予想もできないよ、という本。一つのトピックに絞った短めの本を大量に生産しているサンスティーンせんせーの著書のなかではせいぜい平均値かそれより下くらいで、サンスティーンが書いていなかったら有名にはならない本。

なんらかの分野で成功した人たちを調査してその共通項をまとめた感じの成功本はいろいろあるけど、結果によってサンプルを選んでしまうとその共通項が成功の秘訣なのか、それとも失敗した人たちにも広く共有されたごく一般的なパターンなのかは分からない。長期にわたる社会学的データをもとに大勢の研究者に誰が成功するか予測してもらったところ、それぞれの研究者たちが作ったモデルはお互いよく似通っていたけれども、せいぜい偶然より少しマシな程度の成果しか出せず、成功者を予測することが難しいことが分かる。まあデータの量を大幅に増やしてAIにやらせたらもしかしたらもっと正確になるかもしれないけど。

もちろん全く実力がない人が大成功することは少ないし、圧倒的な実力がある人が底辺に沈むことも少ないけれども、大多数の人たちにとって成功者とそうでない人たちの違いは本人の資質に依存しない。偶然の出会いや出来事、差別を含めた社会的な機会の格差などによって生まれた小さな差が情報カスケード、ネットワーク効果、集団分極化などこれまで著者が議論してきた社会的なプロセスによって増幅され、成功者とそうでない人たちを作り出していく。

本書の後半は具体例としてジェーン・オースティン、ボブ・ディラン、アイン・ランド、そしてビートルズなどの例を挙げながら、かれらの成功がどういう偶然によって起きたのか論じていく。もちろん現実に起こったある偶然がなくてもかれらが別の偶然に助けられて成功した可能性は十分にあるけど、かれらの成功の裏には同じくらい才能や資質にあふれていたけれども幸運な偶然にめぐまれずキャリアを諦めてしまった人たち、成功しなかった人たちがたくさんいると考えられる。成功者の裏には誰にも知られていないけど同じくらいスゲえやつらがいるはずだから、過去現在ともにそういう人たちをどんどん発掘していこうぜ、というのが取って付けたような結論。

まあ大したことは言ってないんだけど、オバマ政権に入っていたときに著者と結婚したサマンサ・パワーズ元米国国連大使のノロケ話とか、リベラル法学者として知られる著者も一時は若気の至りでアイン・ランドに傾倒してたこととか、「もしジョンとポールが出会わなければ、あるいは出会ったタイミングが違えば」とか「もしジョンがポールの若い友人ジョージを認めなかったら」どうなっていたか、という仮定の話はするのに「もしリンゴが加入していなければ」とは一言も言わないことに笑ってしまった(まあわかるけどリンゴが不憫)こととか、変なところでおもしろかった。あ、あと、カスケードの説明をする話の中で登場する架空の人物としてとくに意味はないけどジョン・ポール・ジョージ・リンゴという名前が出てきたと思ったら、その次がヨーコだったのも笑った。