Kenny Ethan Jones著「Dear Cisgender People: A Guide to Trans Allyship and Empathy」

Dear Cisgender People

Kenny Ethan Jones著「Dear Cisgender People: A Guide to Trans Allyship and Empathy

イギリスに住んでいる黒人ミックスのトランス男性の著者が、トランスジェンダーの人たちのアライになりたいシスジェンダーの人たちに向けて書いた入門の本。

正直なところ、トランスジェンダーの存在を説明するのに北米やハワイの先住民文化やインドのジェンダーやインターセックスの存在を表面的な理解で持ち出したり、Emma Heaney編「Feminism Against Cisness」の中でも批判されていたような黒人女性のフェミニズムの誤引用をしていたりと、いろいろ気に触るところがありすぎて入門書としてはお勧めはできない。てゆーか入門書としてなら以前紹介したSchuyler Bailar著「He/She/They: How We Talk About Gender and Why It Matters」のほうが議論も丁寧で分かりやすく疑問に感じる部分もないので完全に上位互換。

そうした批判をふまえたうえで、それでも本書が興味深いのは、著者がモデル・スポークスパーソンとして月経・生理について正面から話そうとソーシャルメディアなどを通してほかのトランス男性やAFABノンバイナリーの人たちに呼びかけてきた点。自分に生理があるということが精神的に受け入れがたいため必要なケアを受けないトランス男性やノンバイナリー自認の人たちが多いなか、生理があることは自分が男性であることと矛盾しない、という考えを堂々と表明した著者は、それにより右派には馬鹿にされ、また一部のトランス男性からは「そんなことを堂々と言えるのは偽物に違いない」と非難されたりも。公衆衛生機関などが「生理のある人」という表現を使ったことに対してJ.K.ローリングらが「女性という言葉と女性の存在を消し去ろうとしている」とバッシングしていたが、そうした表現は女性を抹消しようとする言い換えではなく、女性を自認しないけれども生理がある人たちに呼びかけるために必要な表現なのだと力説する。

巻末には「もっと知りたい方はこちらを」として5冊の本が紹介されているけど…なんか少なくね?そりゃあんまりたくさんの本が紹介されていてもどれを読めばいいのか分からないけど(わたしの読書報告の問題点だ)著者はあんまり読書しないのかなーと思ってしまった。ちなみにそのうち3冊はこれまでわたしが超絶お勧めしてきたSchuyler Bailar著「He/She/They: How We Talk About Gender and Why It Matters」、Shon Faye著「The Transgender Issue: An Argument for Justice」、Travis Alabanza著「None of the Above: Reflections on Life Beyond the Binary」の3冊であり、セレクションのセンスは良いと思う。