Tim Scott著「America, a Redemption Story: Choosing Hope, Creating Unity」

America, a Redemption Story

Tim Scott著「America, a Redemption Story: Choosing Hope, Creating Unity

共和党の数少ない全国的な黒人政治家の一人、ティム・スコット上院議員による回顧録。父親のDVを逃れた母親と母方の祖父母に育てられた幼少期からトランプとの関係まで、著者自身の経験だけでなくボボ・ブラジルやジャッキー・ロビンソンらかれが憧れた有名人からかれが関わった一般の人たちまで、多くの黒人たちの物語に触れつつアメリカの理想と希望を綴る。

著者は政治家を志す以前は保険代理店を経営しており、中小企業経営者としての経験から共和党の経済政策に惹かれる。港湾再開発に関連してチャールストン郡議会に立候補しようと思ったときは最初に民主党に相談したが順番を待てと言われ、共和党の扉を叩いたところ黒人の保守派であることが歓迎されて立候補。そこから一度の落選を経て州下院、連邦下院、連邦上院と順調にステップアップをしてきた。

著者が繰り返すのは、どんなに厳しい状況に置かれた人にも自らの状況を改善するなんらかの手段がある、という信条。かれ自身車を運転しているだけで何度も警察に停められたり、店に買い物に行くと万引を疑われて付け回されたり、職場である議会に入ろうとして白人の同僚は素通りできるのに自分だけ警備員に呼び止められたりするなど、日常的に人種差別を経験しているが、それでもアメリカは奴隷制の時代から人種隔離や公民権剥奪を経て改善し続けている、として悲観的な視点に立つリベラルを批判する。また著者は宗教的な信念から、どんな人も根底には善があり、間違いをおかす人たちはその時点で自分にできることをせいぜい行っているのだ、そして誰にでも間違いを正して立ち直る機会がある、とも信じており、ヴェトナム戦争で傷ついて帰国して苦労した父やアメリカという国だけでなくトランプの攻撃的な発言(人種差別的であるとは著者は言わない)に対しても贖罪と改善の希望を見出す。

著者は自身の経験を踏まえつつ共和党の政策の正しさを主張するけれど、それがうまくマッチしているようには見えない。たとえば子どものころ成績も素行もそれほど良くなかった著者にリーダーシップの素養を見出し生徒会に立候補することを促してくれた教師が登場するが、その話を受けて「教育が大事だ、いまの教育行政は教員組合が既得権益を守るために硬直化しているが、バウチャー支給などにより生徒の選択の幅を増やして学校間の競争を活性化するべきだ」という主張に繋がる論理が見えてこない。かれを救ってくれた教師はチャーター・スクールとかではなく普通の学校に勤めていた教師でおそらく教員組合員だろうし、「学校間の競争」はテストの点数を上昇させることはあっても成績に反映されない個々の生徒の特性を伸ばす方向に作用するとも思えない。

著者は母親の75歳の誕生日にトランプが電話してくれたとか、母とともにエアフォース・ワンに乗せてもらったといった逸話を紹介し、母とトランプのやり取りを読む限りは「おかあさん、それは良かったね」と思うのだけれど、だから何だという気が。シャーロッツビルで行われた極右の集会でカウンターデモを行っていた活動家が轢き殺された事件を受けて「どちらの側にも良い人はいる」とトランプが発言したとき、著者はインタビューでその発言を軽く批判してトランプ支持者らにバッシングされたけど、その後トランプに招かれてホワイトハウスに行ったら自分の話を良く聞いてくれた、その結果のちに2017年減税法に「機会振興地区」政策(投資の利益を機会の少ない貧しい地域に再投資すればキャピタルゲイン税を減免する制度)が盛り込まれることになった、と言う。

2015年に著者の地元チャールストンの黒人教会で起きた白人至上主義者による銃乱射事件について、遺族の人たちが口を揃えて犯人に対する「許し」を表明し、犯人の贖罪を求めていることを、人種差別に対する優れた対応として著者は称賛している。その一方で、かれのことを「人種差別のアリバイとしてトランプや共和党に重用されている」と指摘するリベラルに対して、自分が自分の能力や実績でその場にいるのではなく黒人であるというだけで利用されているというのは最悪の人種差別だ、と厳しく批判。それはわかるけど本物の白人至上主義者にだけ選択的に優しいのは納得いかない。

著者の個人的なストーリーも、人種や政治信条や宗教にこだわらずに同じ人間として関わり合おう、という呼びかけも魅力的なのだけれど、かれが主張する実際の政策は共和党の最右翼のそれ。民主党のリベラルこそ人種差別主義者だという批判はするけれど、トランプの数々の問題発言が人種差別的だとは決して言わないし、白人リベラルを批判しつつも自分以外の黒人政治家についてはほとんど言及しない(著者が目がほとんど見えない自身のおじいちゃんが投票できるよう介護したらオバマに投票してた、という話はおもしろかったけど)。保守派なのはわかるけど、せめて人種問題についてはもう少し共和党の同僚の耳に痛いことをきちんと言ってくれたらいいのに。