Jonathan Martin & Alexander Burns著「This Will Not Pass: Trump, Biden, and the Battle for America’s Future」

This Will Not Pass

Jonathan Martin & Alexander Burns著「This Will Not Pass: Trump, Biden, and the Battle for America’s Future

ニューヨークタイムズの政治記者による、2020年から2021年にかけてのアメリカ政治で起きたことをまとめた本。ウクライナ疑惑によるトランプの一度目の弾劾裁判にはじまり、コロナ危機、ジョージ・フロイド氏殺害と反人種差別運動の高まり、前代未聞の選挙戦とバイデン当選を認めないトランプの悪あがき、議会占拠事件、二度目のトランプ弾劾裁判、アフガニスタン撤退の際の大混乱、と歴史的な大事件が続出したこの時期には後世の歴史家も注目しそうだけれど、これらの事件の内情を知る人たちに同時代的に取材した政治記者の記録は貴重。まあトランプやトランプに愛想を尽かしつつトランプ支持者の反発を恐れてトランプに立ち向かえない共和党指導者たちが酷すぎて、読んでてうんざりするんだけど。

トランプ時代の話についても、カニエ・ウエストが大統領選挙に立候補したのは黒人有権者の票をバイデンから少しでも削れたらと考えたトランプの義理の息子ジャレド・クシュナーの働きかけによるものだとか(選挙スタッフもかれが紹介した)、いくつかこの本で注目された事実はあるのだけれど、多くは既に報道されてきたこと。それに対してバイデン政権の内幕、とくにカマラ・ハリス副大統領とバイデンの(かなり険悪な)関係についてのエピソードが新規性があり興味深い。最近ホワイトハウス報道官になったカリーン・ジャン=ピエールは2020年の選挙の際ハリス副大統領候補の首席補佐官を務めたけれど、ジャマイカ出身の父親を持つハリスが同じカリブ海(マルティニーク)系出身の黒人女性であるジャン=ピエールを選んだのかな、と漠然と思っていたけど、実際にはハリスを自由に行動させないためにバイデンの側近が彼女をハリスのもとに送り込んだらしくて、仲は良くなかったらしい。同じカリブ海系黒人女性としてお互い支え合っているのかな、と勝手に想像したわたしが悪いのだけど、なんだかイヤな話だった。

バイデン就任以降はバイデンの政策を妨害することしか考えていない議会共和党に対し、民主党内が進歩派と保守派で内紛して何も進まない話ばかりで、これまだうんざり。まあ民主党保守派+共和党が賛成すれば法案を通すことができるのに対し、進歩派だけでは何も実現できないので、進歩派にとってはすごく不利。2020年の選挙であと2,3議席上院で取っていればなあ… 民主党保守派のシネマ議員とマンチン議員(ってこんな名前書いていいのか一瞬不安になった)がありとあらゆる法案のブレーキになってしまっているのだけれど、どちらか1人でも離党して共和党側についたら(ていうか、つかなくても民主党側から離れるだけで)上院を共和党に奪われる状態で、現に共和党から再三誘われているくらいだからねえ。まあ民主党員だからこそいまのような影響力を持てるわけだし、共和党員になったところでトランプの弾劾に賛成した以上は次の選挙でトランプ派に叩かれるのだから実際に離党するのは難しそう。シネマは信念や打算より直感的に動いている感じで、それなりの条件を出せば取り引きできるマンチンよりタチが悪いかもしれない。

2020年大統領選挙やバイデン政権の最初の1年の裏側をいろいろ知れたという意味では興味深いんだけど、アメリカの民主主義の将来に期待を抱けるような本ではなかった。というかさらに絶望させられるような本かもしれないけど、実際に希望を抱けるような状況ではないのだから仕方がない。