Timothy Shenk著「Realigners: Partisan Hacks, Political Visionaries, and the Struggle to Rule American Democracy」

Realigners

Timothy Shenk著「Realigners: Partisan Hacks, Political Visionaries, and the Struggle to Rule American Democracy

建国以来たびたび起きたアメリカ政治の「再編」(リアライメント)をそれをもたらした政治家や活動家らの動きとともに振り返る本。著者はジョージワシントン大学の歴史学者。

「再編」とは二大政党制が続いてきたアメリカにおいて、それぞれの党の支持層の構成やイデオロギーが大きく変化することを指す。よく知られている例をあげると、かつては南部の白人を支持層としていた民主党が現在では北部や非白人層の支持を受けていたり、逆に奴隷制を廃止したリンカーンの共和党がいまでは南部を中心とした都市部以外の白人を支持層としていることは、南北戦争の時代から何度かの再編を経て生まれた状況だ。

「建国の父」の一人とされるアレクサンダー・ハミルトンから現代の保守活動家フィリス・シュラフリーまで、政界の再編をもたらしてきた人たち(そしてバラック・オバマ大統領のようにそれをもたらそうとして失敗した人たち)のストーリーを交えつつ著者が指摘するのは、アメリカの歴史において現代ほど二大政党が勢力を拮抗させている時代はこれまでほとんどなかったという事実だ。建国時のフェデラリスト党(ハミルトン)からそれに続いた民主共和党(トマス・ジェファーソン)、アンドリュー・ジャクソンの民主党、南北戦争を勝利に導いて「第二の建国」を成し遂げた共和党(リンカーン)、その後も何度か民主党と共和党が入れ替わり覇権を取ったのち、世界大恐慌と第二次世界大戦を契機に生まれたフランクリン・ルーズヴェルト(民主党)のニューディール連合が最後の覇権的な体制だった。

その後もたとえば共和党のロナルド・レーガンが1980、1984年の大統領選で地滑り的な大勝を成し遂げたことはあったけれど、レーガンの時代には議会では民主党が勝っていたし、いずれかの政党がホワイトハウスだけでなく上院・下院の両方で多数を取る状況も何度もあったけれども、それでもかつてのリンカーンやルーズヴェルトの時代のようにどちらかの政党が圧倒的な力を誇るという状態はここ50年以上ものあいだ起きていない。よく「かつては超党派による妥協や協調が行われていたが今では両党は対立するばかりだ」という嘆きの声が聞かれるが、実際のところかつてのそういった妥協は強大な与党と弱い野党という関係の中で培われていたものだ。次の選挙であっさり与野党がひっくり返る可能性があるという状況では、与党になった側は次の選挙が行われる前に自分たちの政策をゴリ押ししようとし、野党になった側はとにかく与党の政策を妨害して失敗に追い込み次の選挙で政権を奪おうと考えるのが合理的となる。

実際のところ、近年この「合理的な」戦略を積極的に採用しているのは共和党の側であり、民主党のオバマやバイデンは超党派による協調路線を掲げて失敗してきている、とEd Burmila著「Chaotic Neutral: How the Democrats Lost Their Soul in the Center」は指摘している。本書でもオバマ政権を理想を掲げて協調的な新たな時代を生み出そうとして挫折した第一期、古典的な民主党政治家として再選を目指した第二期、そして共和党の妨害を前提としたうえで議会を通さずとも大統領の立場から可能なリベラルな(そしてその多くがトランプによって中止された)政策を積極的に実施した第三期に分けて分析、アメリカ政治の二極化を解消しあらたなニューディール連合的な体制を築こうとしてはじまったオバマ政権が(その大部分はかれの責任ではないとはいえ)最終的に二極化をさらに加速させてしまった経緯を説明している。

オバマの2008年大統領選挙での当選は、黒人をはじめとする人種的マイノリティや若者、女性、クィア&トランス、そして都市部の高学歴層などの連合による勝利だとされ、人口構成の変化によりそれらの層はこの先いっそう力を増していくだろう、と言われた。2016年のトランプの当選により「白人労働者階級の離反」という課題が指摘されるようになったものの、人口構成の変化は確実に進んでおり、共和党の中では黒人やラティーノや女性らに支持層を広げる努力をするべきだという主張と、それとは逆に黒人や若者らの投票を妨害したり選挙区をジェリマンダーするなど少数の支持でも共和党が勝てるような仕掛けを張り巡らせようとする動きが同時に起きている。

アメリカ史における政治再編を起こしてきた立役者たちに注目したストーリーはおもしろかったし、現在のアメリカ政治で妥協や協調が行われなくなっているのは両党の勢力が拮抗しているからだ、というのは意外だったけれど納得がいった。拮抗しているなら中間層の支持を得るために協調的になるのでは?と思いがちだけれど、そもそもAnand Giridharadas著「The Persuaders: At the Front Lines of the Fight for Hearts, Minds, and Democracy」が指摘しているように中間層とされる人たちは中道ではないし、両党が拮抗しているからこそ相手側を失点させることが戦略として有効だという話。本書でも「オバマが大統領になるのは10年早かった」と書かれているけれど、あれだけカリスマと魅力にあふれている政治家がいまの政治状況のせいで実力を発揮できなかったことが残念。