Ro Khanna著「Dignity in a Digital Age: Making Tech Work for All of Us」

Dignity in a Digital Age

Ro Khanna著「Dignity in a Digital Age: Making Tech Work for All of Us

2016年の選挙で日本でも知られている日系アメリカ人議員マイク・ホンダを破ってシリコンバレー選出(選挙区内にアップルやグーグルなどがある)の下院議員となったロー・カンナによる「デジタル時代の尊厳」についての本。民主党左派の立場からサンダース議員やウォレン議員らと共に推進しているさまざまな政策をプッシュしつつ、テクノロジー業界について議員随一の知識と見識を披露している。前半は産業構造の変化により工場の閉鎖が相次ぎ高い失業率に苦しむ地域にテクノロジー産業の恩恵をどう広げるかという内容で、後半は一部のテクノロジー企業の寡占がもたらしたさまざまな問題に対してどう対処するかという話。

前半では、失業した労働者に対して「プログラムを覚えろ」的な押し付けを批判しつつ、技術を身につけたい人に積極的に支援すると同時にテクノロジー産業を全国に広めることにより、地域の経済を好転させテクノロジー産業以外の職も増やそうという考え。ふつう議員は自分の選挙区の雇用を増やそうとするんだけど、自分の選挙区にテクノロジー産業が集中しすぎるのはよくないという考えから他の地域へのテクノロジー産業の拡散を呼びかけるという珍しいケース。てか選挙区が豊かで余裕があるだけか。コロナ危機によりこれまで思われていた以上に多くの職種がリモートでも可能なことがわかったので、今後リモートワークを定着させるべきだとも。

2016年のトランプの当選に繋がったと一部で言われている(結局それほどデータでは支持されていないのだけれど)「置き去りにされた白人男性労働者層」の「尊厳を守るため」としてさまざまな政策を主張する一方、それよりさらに置き去りにされてきた黒人や女性の尊厳については、テクノロジー産業では黒人や女性が偏見により採用されない、出世できない、みたいな話しかなくて、制度的な人種差別や性差別の存在が無視されているのも、サンダース周辺にありがちなパターン。著者はインド系アメリカ人として「海外に職を輸出するインド系テクノロジー推進派」だという偏見で見られがちなことを気にしているようだけど、それより黒人差別の矮小化するだけでなく「怒れる白人男性」を甘やかして黒人差別に加担するアジア系エリート、というステレオタイプに陥っていることの方を気にしてほしいところ。てか選挙区から遠く離れた地域への配慮がすごいんだけど、この人大統領選挙に出るつもりなの?

後半では「インターネットにおける権利章典」を提唱し、テクノロジー企業による個人データ採取・利用に規制をかけようとしたり、言論の自由を守りつつ暴力や民主主義の破壊をもたらすデマやフェイクニュースに対する対策や、一部のプラットフォーム企業が独占力を悪用することを抑止するような政策を主張。企業の規制の話ばかりで警察や国家権力のデータ利用・アルゴリズム的決定に対する対策が足りない気がするけれども、ほかの議員に比べればはるかにちゃんとしたことを言っている(し、そのうえで同時に、テクノロジー企業が本格的に困るようなことは言っていない)。言っていることはだいたいもっともなんだけど、言うべきなのに言っていないことが多くて、それがわたしにとってサンダース周辺に対する不満になってる。