John Della Volpe著「Fight: How Gen Z Is Channeling Their Fear and Passion to Save America」

Fight

John Della Volpe著「Fight: How Gen Z Is Channeling Their Fear and Passion to Save America

ミレニアル世代(1980年代中盤から1990年代にかけて生まれた世代)の次の世代とされるジェネレーションZもしくはズーマー世代(1990年代中盤以降生まれで、それぞれ「ジェネレーションX」や「ブーマー世代」からの連想で名付けられた)と呼ばれる若い人たちがどのような世界的イベントに影響を受け、どのように社会や政治に関わるようになっているか、そしてかれらが今後社会になにをもたらすか展望する本。著者はハーヴァード大学ケネディスクールに勤める世論調査の専門家で、民主党系の世論調査会社も運営しており、本書の内容は多くの若い人たちへの調査に基づいている。

著者はZ世代の特徴として、物心ついたときから同時多発テロと対テロ戦争の開始(2001)、イラク戦争(2003-2011)、ハリケーン・カトリーナ(2005)、住宅バブル崩壊と国際金融危機(2007-2008)、オバマ当選を契機とした白人至上主義運動の活発化(2008-)、オピオイド危機(2013頃から激化)、警察による黒人市民殺害(BLM運動は2013発足)、銃乱射事件の頻発(パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校事件は2018)、トランプ当選から議事堂選挙事件に至る大混乱(2016-2021)、コロナ危機(2020-)、そして改善に見込みが見えない気候変動と、立て続けに起きた社会全体を揺るがすような危機を経験して育った世代であり、不安や鬱をこれまでのどの世代より抱えている世代だとしている。その一方で、将来への不安を強く感じつつも、ネットを通して社会のさまざまな問題について学び、仲間を見つけ、行動を起こしてきたことで、自分たちが世の中を変えることができるという信念は強く持っているとしている。

この世代が抱く一見矛盾しているような不安と自己効力感の共存を生み出した事象として、著者はこの世代が経験した5つの事象や運動を挙げている。第一に、ウォールストリート占拠運動(2011)、第二にトランプ政権の誕生とウーマンズ・マーチや白人至上主義に対するカウンターを含むトランプ政権への抵抗運動、第三にマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件とそこから始まった全国の生徒たちによる銃規制を求める運動、第四にジョージ・フロイド氏殺害(2020)とそれに対するブラック・ライヴズ・マター運動の爆発的拡大、最後は同世代のグレタ・トゥーンベリさんがマジョーリー・ストーンマン・ダグラス高校の運動にヒントを得て気候変動対策を訴えるために呼びかけた大規模な授業ボイコット。

この世代の多くは金融危機によって親が失業したり持ち家を失うのを経験しており、かつて大恐慌を経験した世代がそうだったように、将来に大きな不安を感じた。そしてその数年後に起きたウォールストリート占拠運動は、かれらが目撃した最初の大規模な社会運動であると同時に、金融危機を巻き起こしたウォールストリートが政府による救済で生き延びた一方仕事や持ち家を失った人たちは置き去りにされたという不公平感を呼び起こし、のちのバーニー・サンダース旋風に繋がる社会民主主義への期待を広めた。その後トランプ政権のさまざまな政策に対する抗議デモやBLM運動、そしてとくに若い世代にとって深刻な学校での銃乱射や自分たちの将来をぶち壊す気候変動の問題では、他国の同世代の人たちと繋がって若い人主体の運動が起きた。

もちろんこの世代の若い人たちが全員リベラルや社会民主主義に傾倒しているというわけではなくて、著者は自分の通っている学校で銃を乱射した生徒や、白人至上主義やインセル運動にのめりこんだ若い人たちのことにも触れている。著者はかれらがそれらの行動に流れてしまうのは不安やその他の精神的な困難を多く抱えたこの世代の人たちが社会的に孤立した結果だと指摘したうえで、若い人たちに対する精神的ケアの拡充の必要性を力説する。とくにコロナ危機によって十代から二十代はじめの大切な時期を2年間も失ってしまった「ズーマー」の世代が長期的に抱えるであろう精神的な苦しみに対しては、できるかぎりのケアを準備しておきたい。

著者は世論調査の専門家として選挙戦略にも関わっており、2004年のハワード・ディーン現象から現在に至るまでの若い人たちの政治動向についての記述も興味深い。Z世代の若い人たちが、自分のおじいちゃんどころか下手するとひいおじいちゃんくらい年齢の離れたバーニー・サンダース上院議員を支持した(もし30歳以下だけが投票していたら、サンダースが大統領になっていた)のは驚愕だけれども、それはサンダースのメッセージが社会主義に対する偏見の少ないZ世代にストレートに響いたから。とはいえZ世代はよく言われる「バーニーブロ」的な年上の熱狂的なサンダース支持者とは違いイデオロギー的に硬直してはいないとしている。その証拠として、エド・マーキー上院議員やジョセフ・バイデン大統領など、エスタブリッシュメント側とされる民主党の候補たちも、若い人たちにしっかり向き合ってかれらの声を聞く姿勢を見せれば、支持を得ることに成功するという例をいくつか挙げている。そしてかれらは新しい考えを親世代にも伝え、影響を与えている。

今後Z世代の人たちのより多くが社会に出たり投票権を得て政治により積極的に参加するようになって世の中はどう変わるかという展望は、ちょっと(中国との冷戦の部分を除いては)楽観的すぎるというか、たしかにこの世代はこれまでで一番人種・民族的に多様で、性差別や人種差別に厳しく、クィアやトランスに親和的で…というのは事実だと思うけど、これまでも「今の若者はより〜だからかれらが力を持てば世の中は変わる」的なことは常に言われてきたように思う。1つだけ「それはたしかにそうかも」とわたしが思わされたのは、この世代はアメリカ史上はじめて「アメリカは特別だ」という考えを持たない世代だ、という指摘。過去の世代は孤立主義にしても「世界の警察」的な外交・軍事政策を主張するにしても、アメリカは世界のほかのどの国とも違う特別な国だ、という前提があり、それが外交・軍事面だけでなく国民皆保険やその他のほかのどの先進国でも実施しているような内政政策の採用を妨げていた。この世代は社会民主主義に対する偏見が少ないだけではなく、そうした「アメリカ特別主義」も持たない、というのは確かに今後のアメリカに大きな影響を与えるかもしれないと思った。

あと、どうやらX世代、Y世代、Z世代と来て、その次の世代はα世代と言うらしいです。知らんけど。