Kara Swisher著「Burn Book: A Tech Love Story」

Burn Book

Kara Swisher著「Burn Book: A Tech Love Story

1990年代にインターネット・ブームが発生した当初からウォール・ストリート・ジャーナルの記者としてシリコンバレーのテクノロジー企業を追い続けてきた(いまもポッドキャストなどで活躍している)伝説級のジャーナリストが、自らのキャリアの進展とともに第一線から見てきた光景や当時はまだ無名の若者だったシリコンバレーの成功者たちとの関係についてぶちまける本。レズビアンとして早くからテクノロジー業界内の性差別やセクハラの問題についても取り上げ、プライバシーの問題や監視社会化、ソーシャルメディアによる社会への悪影響などについても報じる一方、若く経験の浅い創業者たちからは経営上の相談を受けることも少なくなかった。まあウォール・ストリート・ジャーナルだし、当時の創業者より彼女のほうがずっと立場が上。

商用インターネット黎明期にネットスケープのマーク・アンドリーセン(当時はまだ人付き合いが苦手な若者で、今みたいにいろいろ勘違いした迷惑な人ではなかった)やアメリカ・オンラインのスティーヴ・ケース(珍しくまともな人間らしい)と知り合ったほか、のちに増長して酷いことになるイーロン・マスクにも小物というかヴィジョンばかりあって実態が伴わないペイパルの中の「じゃない方」として出会い、そのペイパルの主役であったピーター・ティールとは同じ同性愛者として、フェイスブックのシェリル・サンドバーグとはテクノロジー業界に少ない女性として繋がりを築くなど、ジャーナリストという立場を超えて業界から信用を得る。倒産しかけのアップルに復帰したスティーヴ・ジョブズと、そのアップルを救ったマイクロソフトのビル・ゲイツを同じステージ上にあげてインタビューしようとするも、ジョブズがマイクロソフトの揶揄を止めようとしないので困った話とか、面白い話もたくさん。

サブタイトルに「ラブストーリー」と書かれているように本書は、テクノロジーに深い期待を寄せ、その進歩を追い続けてきた著者が、成功をおさめた成功者たちの勘違いや増長と、成功とともに増えた影響力に見合った責任を取ろうとしないテクノロジー企業に失望する、悲しいラブストーリーでもある。その象徴的なのはイーロン・マスクとの関係で、温暖化を止めるために電気自動車を開発して自動車産業に革命を起こすとか、宇宙に人類が進出するのを後押しするといった壮大なヴィジョンに共感していたのだが、まあみなさんご存知の通りツイッターの迷惑扇動アカウントに成り下がったかと思うとプラットフォームごと買収して意味不明の迷走を続けているのが現状。いやいや、もともとこいつ、ペイパル時代からヤバいヤツだろ、と思うのだけれど。