Max Chafkin著「The Contrarian: Peter Thiel and Silicon Valley’s Pursuit of Power」

The Contrarian

Max Chafkin著「The Contrarian: Peter Thiel and Silicon Valley’s Pursuit of Power

ペイパルマフィアを率いる起業家・投資家ピーター・ティールを、ドイツで生まれアメリカ、そしてアパルトヘイト時代の南アフリカ共和国で育った子ども時代から、リバタリアニズムに目覚めてキャンパスのリベラルの反差別主義を挑発し続けた大学時代、そしてペイパルの創業と売却からヘッジファンドやベンチャー投資の世界で成功したり失敗したりするとともに、2016年の選挙でトランプやその他のポピュリスト保守を支援して影響力をふるったあたりまでをまとめた本。

まあどう考えてもヤバい人なのは定評どおりだけど、ティールの人生におけるさまざまな矛盾––ゲイなのに同性愛差別をふくむ社会的マイノリティへの攻撃を擁護し、リバタリアンなのに市民監視を強化する技術を政府に売り込み、フェイスブックなどシリコンバレーのスタートアップに投資しつつそれらをつまらないと蔑視、プライバシー保護を主張しながらケンブリッジ・アナリティカによる違法な個人情報収集を手伝い、他国の国籍を取得したりシーステディングに投資してアメリカ政府から逃れようとしながら「アメリカファースト」を掲げてトランプに同調、言論の自由絶対論者でありながらgawkerを潰すためにgawkerの記事に不満を持つ人たちに接近し多数の訴訟を起こさせgawkerを破産に追い込む、死は人生において必然ではなく死は克服できると言って不死を目指した技術研究に投資しながらコロナウイルスに関してはトランプと一緒にデマを広めて多くの不要な死を生み出すのに加担したり、など––が、かれが演じる「コントラリアン」(逆張り)のパフォーマンスというか自己プロデュースによってうまく誤魔化されているのがよく分かる。

2010年代のテクノロジーやビジネスやメディアや政治のさまざまな場面にティールの存在が大きな影を落としていたことを、わたしは一般の人よりは認識していたほうだと思うのだけど(この本にも登場するペイパルマフィアのスコット&サイアン・バニスターといろいろあってその周辺について調べまくったので)、それでも「ああ、そこが繋がっていたのか」と驚くことも多数。たとえば汚職で逮捕されたダンカン・ハンター元下院議員や、ロシア疑惑で捜査当局にウソをついて有罪になったのちトランプに恩赦されさらに陰謀論者になって迷走しているマイケル・フリン元大統領補佐官との繋がりについて、かれらの犯罪やその他の問題行為にティールが関わっていたわけではないけれど、ティールの周辺に集まってくる人たちに見られる一定のパターンではありそう。