Jeff Deutsch著「In Praise of Good Bookstores」

In Praise of Good Bookstores

Jeff Deutsch著「In Praise of Good Bookstores

アマゾンの席巻により社会から書店が消えていくなか、21世紀における書店のあり方について論じた本。著者はシカゴ大学の一角にあるセミナリー協同組合書店の代表者。この書店は無数の学術書を揃えていることで世界的に知られていて、シカゴ学派経済学で有名なミルトン・フリードマンやゲリー・ベッカーらもかつて協会員として頻繁に訪れていたとか。アマゾンははじめから本の販売で儲けを出そうとはしておらず、本を安く売ることで顧客を掴みほかのより利益率の高い商品やサービスを売るビジネスモデルを取っている、これは本の文化的価値を貶めており一般の書店に対して不公平な競争だと著者は憤慨するけれど、同時にアマゾンが登場する以前から本の販売は利益率が低く、アマゾンが登場するはるか以前から多くの書店は店内でグリーティングカードやギフトやコーヒーなどより利益率の高い商品も売ることで辛うじて経営を成り立たせていた、と認める。

内容的には、そうだね、本をよく知っている書店員のキュレーションやアシスタンス、コミュニティにおける役割、いまだにメタバースでは再現できない書店内の物理的なスペースを眺めることの意義など、実際に「いい書店」を知っている世代のわたしには理解できるけど、それを今後に存続させるのは難しいよなあと。コロナ禍で書店の閉鎖を余儀なくされ、セミナリー書店の大切さを理解してくれているファンたちは郵送で本を注文してくれたけれども、書店を続けるためとはいえアマゾンと大差ない「本の配送センター」となってしまったことにショックを受けた様子。わたしも南キング郡で性労働をしている女性を支援するスペースの運営に関わっていて、毎晩30人以上の女性が集まるコミュニティが生まれていたのだけれど、コロナ禍がはじまるとスペースを閉鎖、駐車場で食料やその他の物資を配るだけの活動に追い込まれてしまった経験があり、著者の気持ちはよく分かる。これは今必要とされていることで、やらない選択はないけれど、わたしがやりたかった仕事ではない、と。

著者は図書館の役割にも触れていて、図書館と書店がどのように違うかという説明もしているのだけれど、書店がコーヒーやその他のものを売らなくてはいけなくなったのと同じように、図書館も(Amanda Oliver著「Overdue: Reckoning with the Public Library」で書かれているように)コミュニティに文化的財産を届ける役割から、ホームレスの人やその他の社会的弱者に対してサービスを提供する拠点に変質してしまったことを残念だと考えている様子。もちろんそれらのサービスはコミュニティセンターなどを通して提供されるべきだが、図書館がそういうコミュニティセンターである必然性はなく、図書館本来の役割が軽視されてきていると感じているようだけれど、書店が本の売り上げだけで経営を成り立たせることができないと同じく、いまさらそれを言ってもなあと。共感できる部分も多いんだけど、同時にいかにもシカゴ大学の人が思ってそうなことが書かれた本だなあと思った。