Vicki Sokolik著「If You See Them: Young, Unhoused, and Alone in America」

If You See Them

Vicki Sokolik著「If You See Them: Young, Unhoused, and Alone in America

親や保護者がおらず自立して生きている、あるいは生きようとしている未成年の人たちに対する支援活動をしている著者が、かれらが置かれた境遇やかれらの存在を想定していない社会制度の問題点について語る本。すごく重要な内容が書かれているのでみんなに読んでほしいと同時に、著者の立場や考え方があまりにアレなヤバい人なので、もやもやがおさまらない。

著者の父親はテキサスで数百人の従業員を雇う会社を経営している社長で、家はプールもあるし5人の兄弟姉妹にそれぞれ広々としたウォークインクロゼットのある個室が与えられている程度の豪邸。レントゲン技師の夫と結婚してフロリダに引っ越し裕福な暮らしをしていた彼女は、ふとしたことで「感謝祭の晩餐を子どもを持つホームレスの家庭に届けたい」と思い立ち、地域の知り合いたちと一緒に一年に一度それぞれが担当するホームレスの家庭に届けることに。

家庭を紹介してくれたところとの約束で、かれらに余計なことは聞かずにただ食事を届けるだけにしろ、と言われていたけれど、食事を届けた先の母親は長年続けている仕事の合間に週払いで滞在している安いモテルまで食事を受け取りに戻っていたということを知り、長年ちゃんとした仕事をしているのにどうしてホームレスなのか?という疑問を感じる。翌日、どうしても我慢できなくなり彼女に会いに行った著者は、彼女はいったんアパートに入居さえすれば家賃を払えるだけの収入はあるけれども、アパートに入居するために必要なまとまったお金が貯まらないので仕方なく、割高となるのを知りつつモテルに住んでいることを知る。

ショックを受けた著者は、彼女にも夫にも承諾を得ずに勝手にアパートを契約し、入居費用を払い、さらに家族が必要な家具も買って運び込んだうえで、「プレゼントがあります」と彼女と子どもをアパートに連れてくる。それからも著者は彼女と連絡を取り、時には食事を届け、時には子どものためにプレゼントを買い、すっかり家族ぐるみで仲良くなったと思っていたら、あるとき彼女から「これまでわたしたちを助けてくれてありがとう、でももうわたしたちは十分に助けてもらい自立できるようになったから、こんどは別の人を助けてあげてください」と言われてしまう。

次に助けることにしたのは、著者自身の子どもが通う学校の進学クラスで頑張っているけれど、保護者がおらず一人で生きるために友だちの家を転々としたり公園で寝たりしている少女とその彼氏。彼女が大学に行くのを応援すべきだ、と考えた著者は、これまで通り学業をがんばることを条件として彼女のためにアパートを借り、さまざまな支援を受けられるよう働きかける。そのなかで著者は食費支援や住居支援などの制度が大人と「保護者のいる子ども」だけを対象としており保護者がいないと支援を申し込むことすらできないなど、さまざまな制度の不備に気づいていく。

しかし仕事を求めて軍隊に入隊することを決めた彼氏に付き添って軍の募集所へ行った少女は、軍に入れば食費や住居費がかからないばかりか給料も貰えて除隊後には大学に行く資金も出してもらえる、など勧誘され、彼氏と一緒に入隊を決めてしまう。彼氏が入隊することには賛成していた著者だけれど、少女は大学に行くべきだと考えていた著者が激怒し、大喧嘩。しかし少女は入隊前に妊娠したために入隊が取り消されてしまい、著者のもとに戻ってくる。で、結局彼女は著者に深く謝罪し、著者のアシスタントになってめでたしめでたし、みたいな話なんだけど、恵まれた家庭で育ち裕福な暮らしをする著者がその財力で暴れまわるのは、結果的に助かっている人がいるのは確かだとしても、やっぱり読んでいてもやもやし続ける。

ほかにも、常にヘッドフォンで音楽を聴いていてほとんどコミュニケーションを取ってくれない黒人少年が、はじめて自分は読書が好きで「一番好きな本はマルコムXの自伝だ」と言った途端に著者が会話を打ち切ってしまったり、自分にとってマインドフルネスの瞑想が有用だったからと保護者がいないホームレスの子どもたちを集めたグループで「あなたがどう感じるかはあなたの考え次第」と教えるとか無神経すぎると思うし、どこまでいっても本当にもやもやする内容が続く。好意的に解釈すれば、こんなに現実を知らなかった恵まれた自分があれこれミスをおかしながら手探りでこういうことを学びました、って感じなんだけど、学んでいなさそうな部分も結構あるんだよなあ。

保護者のいない未成年を支援する活動を広げていくのと同時進行で、二人目の子どもが障害を持って生まれたために学校の無理解に苦労した話や、あれだけ裕福だった父親が架空の石油ビジネスに騙されて財産を失った話なども出てきて、著者自身の人生もいろいろ大変なことが起きていることが書かれているけれど、それでも子ども時代に暴力や貧困を経験せず育ち、金持ちの道楽みたいな社会貢献活動をできるほどの余裕のある人生を送れているわけで、それで苦労と言われてもみたいな。著者の活動はフロリダ州の政治家たちからも協力を得ているけど、著者が仲良くしているフロリダの政治家たちって、あの恐ろしい連中だよね… またもやもやもや。でもこういう未成年の人たちがいるという話や、無茶苦茶な制度の不備など、広く知られてほしい内容もたくさん書かれている。