Ross Perlin著「Language City: The Fight to Preserve Endangered Mother Tongues」

Language City

Ross Perlin著「Language City: The Fight to Preserve Endangered Mother Tongues

世界で最も多様な言語が話されているニューヨーク市で、消滅の危機にある言語とそれを話しているコミュニティの支援を行っている言語学者が、その活動のなかで出会った移民やその子孫らの話を通してニューヨークの移民コミュニティの歴史と現在を語る本。

ニューヨークはチャイナタウンとかリトルガイアナのように特定の民族集団が固まって住み着いた地域がたくさんあるが、その中にもまたさまざまな出身地や言語を持つ人たちが混ざり合って暮らしている。中国語やスペイン語と言っても出身地域や民族によって話が通じないほど違うし、独自の文化や言語を持つ少数民族の人たちもニューヨークに移住しコミュニティを築いている。自分たちの言語のほかに国の多数派が話す民族言語と旧宗主国がもたらした英語やフランス語などの言語を話すマルチリンガルも普通に大勢いて、時と場合によって使い分けている。また外国からの移民だけでなく、20世紀に南部から人種差別を逃れてきた黒人たちや居住地からニューヨークに移住した先住民たちなども、さまざまなバリエーションのある黒人英語や各地の先住民言語をニューヨークにもたらしている。

歴史的には、ほんの数百人から数千人にしか話されていないような言語であっても、外部との交流が少なければ存続することができた。しかし現在、どの国でもメディアや教育による言語の全国化が進み、またコミュニティ外部の政府やビジネスとのやり取りのために共通言語が必要となった結果、少数派の言語はすでに消滅したか消滅の危機に晒されている。ニューヨークの移民家庭でもアメリカで生まれた子どもは普通に英語を話し、移民三世では上の世代が話していた言語を失うことが多い。そういうなか、自分や自分の親、祖父母たちが話してきた言語を残し、またそれらの言語を話す人たちが直面する困難を解決しようと取り組んでいる人たちがおり、コロンビア大学で講師を務める著者は大学の学生たちを率いて失われつつある言語の調査も行う。

「イタリア系」や「ユダヤ系」と大きくまとめられてしまう移民の歴史についての教科書には書かれていない複雑な話や、辞書どころか単語帳すらないところから言語を記録する活動や、同じく辞書もなく通訳を訓練するプログラムも通訳の資格も存在しないところから話が通じずに困っている人たちを支援する活動など、全然知らなかった話が次々と出てきてとても興味深い。ニューヨークを見る目が変わったし、自分が住んでいるシアトルのさまざまなコミュニティについてももっと知りたいと思った。