Lamar Hardwick著「How Ableism Fuels Racism: Dismantling the Hierarchy of Bodies in the Church」

How Ableism Fuels Racism

Lamar Hardwick著「How Ableism Fuels Racism: Dismantling the Hierarchy of Bodies in the Church

人種差別と障害者差別の繋がりをキリスト教における身体の序列化の歴史から理解しようとする本。著者は大人になってから自閉症の診断を受け、また癌との闘病のなかで身体障害を経験している黒人男性のキリスト教会牧師で、黒人解放神学の立場からキリスト教会が人種差別や障害者差別を擁護してきた歴史を批判する。

人種という概念が黒人奴隷制を正当化するための論理として生み出されたことは多くの論者によって指摘されているけれど、本書はそれに加えてさらに障害に対する社会的な考え方が奴隷差別の正当化に寄与した事実を指摘。たとえば黒人のことを精神的に未発達で放っておいたら文明的な生活を送ることができないから奴隷として養い文明的な生活をさせることは慈悲である、という論理は、黒人が人種的に劣っているという人種主義だけでなく、黒人の身体や精神を「障害がある」と解釈することでパターナリスティックな介入を正当化している。

著者はこうした人種理解・障害理解を肯定してきた白人キリスト教会の聖書解釈を否定し、磔にされ殺されたあと復活したが自らの傷を癒そうとはしなかったイエス・キリストの意志を継いでいるのは黒人解放神学であると言うけれども、キリスト教徒ではないわたしにとっては「どっちのほうが好きか」と言われれば後者だけれども「どちらが正しいか」はどっちもどっちだとしか。しかし身体の序列化のなかで人種差別や障害者差別が強化された歴史や「醜さ」をめぐる宗教的な価値観、旧約聖書「士師記」のミカの逸話の解釈や、ユダヤ教やイスラム教にはない西方キリスト教独自の「原罪」概念が障害者差別と結びついてきた歴史など、キリスト教徒でなくても興味深い内容。