Rana M. Jaleel著「The Work of Rape」

The Work of Rape

Rana M. Jaleel著「The Work of Rape

1990年代以降、ボスニア紛争やルワンダ内戦などを通し、キャサリン・マッキノンら主流派フェミニストたちの働きかけの結果、戦時性暴力が戦争犯罪の一つとして認識されるようになったことの功罪を、非白人女性のフェミニズムやクィア・トランス批評などの視点から論じる本。いまわたしの中で、ここ数年のあいだ面倒くさくて後回しにしてきた学術本を読むブームが来てるのでその一環で読んだ。

戦争のなかで起きる組織的・構造的な性暴力が深刻な問題として扱われるようになったのは進歩だが、性暴力が女性にとって死よりも悲惨な体験として語られ野蛮の代名詞とされることが歴史的に植民地主義や白人至上主義的な暴力の口実とされてきたのもまた事実。しかも性暴力が戦争犯罪として扱われるようになったのは冷戦が集結しアメリカが世界一の覇権国家として威勢を誇り、自由と民主主義の盟主として女性の権利を高々と掲げたネオコンの時代。アメリカ政府やアメリカの主流派フェミニズムはアフガニスタンのタリバン政権を女性差別的だと攻撃するいっぽう、イラクのアブグレイブ収容所で米兵が行った捕虜の性的虐待は、アメリカの軍事政策や軍内のカルチャー、アメリカ国内の移民やムスリムに対する排斥、大量収監制度やその中での人種差別的な囚人虐待とは無関係な、直接それに関わった兵士たち個人の犯罪として処理された。

戦時性暴力に対する国際法上の仕組みが、アメリカを中心とした帝国主義的・植民地主義的な国の法制度を元にしている限り、性暴力に対する取り組みが既存の権力構造を強化し温存する仕組みの一つとして機能してしまう。本書はブラックフェミニズムや脱植民地化フェミニズム、クィア&トランス批評を参照しつつ、反帝国主義的な反性暴力の取り組みを模索する。