Stephanie Phillips著「Why Solange Matters」

Why Solange Matters

Stephanie Phillips著「Why Solange Matters

ジャマイカ系移民の子どもとしてイギリスで育ちジャーナリストとして活動するかたわらパンクシーンにも関わっている黒人女性の著者が、アメリカの歌手・アーティスト・活動家ソランジュがどうして著者を含めた多くの若い黒人女性たちにとって大切なのか、著者とソランジュのそれぞれの半生を重ね合わせて説明する本。

ビヨンセ五歳下の妹であるソランジュは、幼い頃からビヨンセのグループ、デスティニーズ・チャイルドのツアーに参加するなどし、デビューアルバムから著名なミュージシャンやプロデューサが参加するなどしたことから姉のコネの恩恵を受けていると言われ、なにかと姉と比較されてきた。ソランジュの楽曲が多様なジャンルを横断しときに実験的なサウンドを採用していることは、姉ビヨンセとの差別化を図ろうとしているのでは、と批評家らには言われたけれども、姉との差別化というよりは「黒人女性の音楽といえばこういう感じ」といったステレオティピカルな決めつけから脱し自由な作詞・作曲を行った結果だと著者は指摘。三枚目のアルバム「A Seat at the Table」からは高い音楽性とともに特に黒人女性に向けて語りかける政治的にコンシャスなメッセージが注目を集め、ビヨンセとは関係なくコアなファンが増えた。

ソランジュの活動は音楽だけにとどまらず、映像やパフォーマンスアートでも高い評価を受けているほか、ブラック・ライヴズ・マターのデモに参加するなど政治運動でも積極的に活動、自分のレコードレーベルを立ちあげるなどビジネスより自分の作品へのコントロールを重視し、白人マーケット受けを狙うのではなく黒人女性へのメッセージを優先した姿勢は、ナイジェリアのフェミニストChimamanda Ngozi Adichieをサンプリングする曲「***Flawless」でビヨンセが「My sister told me I should speak my mind」と歌っているように、姉のビヨンセにも影響を与えている。

わたしの周囲でも黒人や非白人の女性のあいだではビヨンセよりソランジュのファンが多いくらい、ソランジュのメッセージは彼女がターゲットとする層の共感を呼んでいる。彼女は時間をかけてじっくりアルバムを作るタイプで新作がなかなか出ないのでしばらく聴いてなかったけど、今回この本を読みつつ彼女の四枚のアルバムを何周か聴き直した。