Santi Elijah Holley著「An Amerikan Family: The Shakurs and the Nation They Created」

An Amerikan Family

Santi Elijah Holley著「An Amerikan Family: The Shakurs and the Nation They Created

マルコムXが暗殺され、ブラックパンサー党がFBIの工作などにより内部対立を深め勢いを失ったあと、かれらのブラックナショナリズムを受け継ぎさらに先鋭化させた1970年代以降の黒人革命運動の歴史を、その中心を担ったシャクール一家と「ファミリー」と呼ばれたその周辺に注目して語る本。

一家というけれどもシャクールの名前を名乗った人たちは必ずしも血の繋がりがある一族ではない。かつてマルコムXらネーション・オブ・イスラムのメンバーたちが自分たちの名前が奴隷制度によって奪われてきたことを訴えるためにXに改名したように、ブラックパンサー党の一部のメンバーらが名乗った名前がシャクールだった。本書で取り上げられている代表的な人物として、黒人解放軍の指導者だったムトゥル・シャクール、かれと非公式に結婚した元ブラックパンサーの活動家アフェニ・シャクール、その息子でラッパーのトゥパック・シャクール、そして黒人解放軍の一員として活動して逮捕されたあと脱獄してキューバに亡命したアサタ・シャクールらがいる。

ネーション・オブ・イスラムから伝統的なイスラム教に改宗して黒人による分離主義を撤回したマルコムXや、警察から自衛するための武装や示威行為を行いつつ無償のクリニックの運営などコミュニティ支援の活動を拡大していた西海岸のブラックパンサー党に対し、東海岸のブラックパンサー党員たちのあいだでは生ぬるいという批判が高まった。FBIによる分裂工作や幹部の暗殺・投獄などの結果ブラックパンサー党が分裂すると、東海岸のブラックパンサー党員たちの一部は先鋭化し、黒人解放軍や新アフリカ共和国など自衛するだけではなく積極的に武力に頼ってでも革命や分離独立を目指す運動が立ち上がった。

銀行強盗や恐喝などにより活動資金を集め、何人もの警察官を射殺するなどしたこれらのグループは、当然のことながら政府の厳しい追求を受け、多くの指導者たちが投獄されたり警察との銃撃戦で亡くなったりした。とはいえ合法的な手段で闘っていたキング牧師やマルコムXらだって暗殺されたし、当時のFBIは黒人解放軍のような非合法活動を行う組織だけでなく平和的な黒人団体にもスパイを送り込み妨害工作を行っていたことがのちに明らかになっており、黒人解放軍を一方的にテロ組織として非難するのはフェアではない。多くの活動家たちがキング牧師らの理念を受け入れ平和的な抵抗を続けるなか、黒人解放軍などの団体は文字通りアメリカ政府と戦争状態にあった。

25歳のときに革命運動に身を投じ、投獄・脱獄を経て現在に至るまでキューバで亡命生活を続けているアサタ・シャクールは、現代のブラック・ライヴズ・マターの運動のなかではインスピレーションの一人としてその文章がよく引用されているけど、もちろん彼女もはじめから伝説の人物だったわけではない。若く将来有望だった彼女がどういう経緯で「最も危険な女性」とFBIに呼ばれるまでになったのか、その過程についてきちんと読めたのはよかった。

トゥパクの母、アフェニ・シャクールは彼女自身有力なブラックパンサー党の活動家で、子どものころのトゥパクは彼女に連れられてさまざまな抗議活動や集会に参加し、ほかの活動家たちにかわいがられるとともに、黒人運動のプリンスとして将来を期待された。しかしシングルマザーとなったアフェニは貧しく、住む家がない時期も長かったほか、薬物依存により息子のトゥパクとの関係も一時期失うことになる。黒人運動の未来を託されて育ったトゥパクはその責任を感じながらも、1980年代に入り黒人運動がかつての力を持たなくなり、多くの若者たちが社会運動ではなくストリートギャングでの成り上がりを目指していることを目の当たりにし、かれらに寄り添うためにストリートについてのラップを書くようになる。子どものころのかれを知る活動家たちはトゥパクがラッパーとしてストリート・ライフを歌っていることを知り驚いたが、実際にかれの音楽を聴き、そうした歌詞のなかにアフェニから受け継いだ政治的なメッセージを見出した。

映画への出演や音楽で成功したトゥパク・シャクールは、そのうえでブラックパンサー党のメッセージを受け継いだ政治的な運動に取り組もうと考えたが、ストリートギャングの真似事をするうちに多数の訴訟や刑事事件に直面する。なかでも致命的だったのがホテルの部屋でほかの男性とともに女性に性暴力をはたらいた罪で有罪になったことで、強い黒人活動家の母親に育てられ黒人女性の味方を自認していたかれのイメージが大きく傷ついただけでなく、裁判費用などで財産を使い果たしてしまった。獄中、保釈金を支払うことを申し出て近寄ってきたレコード会社と契約したが、その結果かれのレコードからは政治的なメッセージが消え、トゥパクとビギーという両巨頭の命を奪うことになるギャングスタラップの東西抗争に巻き込まれていった。

もちろん読む前から結末は分かっているのだが、このあたり読んでいてやっぱり悲しくてしかたがないし、もしトゥパクがまだ生きていたら、と思わずにはいられない。またアサタもキューバからアメリカに強制送還されないかわりに活動を自粛させられているのが現状で、彼女がアメリカで運動を続けていられたら、とも思う。かれらに限らずアフェニやその他の活動家たち、あるいはマルコムやブラックパンサーの指導者たちまで含めて、いまのブラック・ライヴズ・マター運動のなかでインスピレーションとして語り継がれ、かれらの演説やリリックが引用されている人たちが、その活動のためにどれだけ多くの犠牲を払ってきたのか、感謝とリスペクトとともに再認識した。