Sola Mahfouz & Malaina Kapoor著「Defiant Dreams: The Journey of an Afghan Girl Who Risked Everything for Education」

Defiant Dreams

Sola Mahfouz & Malaina Kapoor著「Defiant Dreams: The Journey of an Afghan Girl Who Risked Everything for Education

アフガニスタンのカンダハルで育ち、11歳のときに性別を理由にタリバンに家族が脅迫されて学校に通えなくなったばかりか男性の家族の付き添いなしに外出することもできなくなった著者が、それでも学習の機会を求めて無償のオンライン講座を受講したり英会話を練習するために繋がったアメリカ人女性の支援を受けるなどしてアメリカに出国し、物理学を学んで量子コンピュータの研究者になるまでの自叙伝。

本書のはじめは著者の両親の世代から。伝統派と進歩派が主導権をめぐって抗争を続けるなか、クーデターや暗殺が相次ぎついに前者を支援するソ連が侵攻、アメリカが支援するムジャヒディーンとのあいだに内戦が起きる。著者の母親はソ連時代に教育を受けキャリアを志すも、傀儡の共産党政権とも腐敗した既存のムジャヒディーン勢力とも一線を画した新勢力としてタリバンが登場、カンダハルを拠点として活動を激化させると母親は仕事を奪われ家庭に閉じ込められる。

2001年の同時多発テロ事件をきっかけにアメリカが「テロとの戦争」を開始、米軍がタリバンを都市部から退去させるも、首都カブール以外の地域ではアメリカの支配は徹底されず、公式に女性の教育や就業の機会が認められていても近くに潜むタリバンやその他の伝統主義者による脅しや暴力によってそうした機会は奪われる。著者が11歳のときに学校を辞めざるをえなかったのも、言うことを聞かなければ彼女に酸をかけるという脅しがあったから。以降、女の子向けの小さな塾で英語を学んだり、そこも閉鎖されるとインターネットで見つけた無償講座で勉強を続け、物理学に興味を持つ。

留学を理由として国外に脱出した知り合いや親戚はほかにもいたけれども、女性に生まれた著者にはそれも難しい。海外の大学に進学しようにも高卒資格を持たない女の子たちにはそれも難しいし、大学入学に必要な学力テストを受けるために必要な身分証明書を取得するのもテストが行われるパキスタンまで旅行するのも女性であるというだけでハードルが高い。何度も困難にぶち当たり、母親のように夢を諦めて両親に決められた相手と結婚するしかないのかと思ったときに、英会話を学ぶためにはじめたオンライン通話で親しくなったアメリカ人女性が彼女の置かれた状況をアメリカで拡散、そこからニューヨーク・タイムズの取材を受けることで、彼女の未来が開けていく。

著者ははじめ、自分のような普通のアフガニスタンの少女の話をニューヨーク・タイムズが記事にするとは信じられず、なにかの間違いか、あるいは彼女を見つけて罰を与えようとするタリバンの罠かと思ったが、ニューヨーク・タイムズの記者は彼女が自分の置かれた状況に負けずに教育を受ける権利を求めて困難な戦いを続けていることに注目した。彼女についての記事が掲載されるとニューヨーク・タイムズのサイトでは多くの読者が彼女への支持や共感を表明するとともに、彼女に対する嫌がらせも発生。しかし記者が彼女のヴィザがどうして出ないのか国務省側に取材したことをきっかけに、学生ヴィザは出せないが難民として人道的ヴィザなら出せるという話がまとまり、彼女はついに憧れていたアメリカへ。

アメリカで勉強する機会を得た著者はしかし、代わりにカンダハルに残った家族と再会する権利を当面失うことに。そうするうちにトランプ政権はアフガニスタンからの米軍の撤退を発表、続くバイデン政権がそれを実施すると、予想以上のスピードでアフガニスタン政府は崩壊、タリバンがカンダハルを含むアフガニスタン全土を掌握するのを遠いアメリカから見守るしかなかった。カンダハルからの脱出を試みた家族はしかしその途中で交通事故にあい、歴史に翻弄され娘である著者に自分の分の夢を託した母親が大怪我をする。

本書が語るのは、タリバンによる名のない犠牲者としてではなく、圧政のもとでも自分の人生を切り開こうとする一人の若い女性のストーリー。Nahid Shahalimi編「We Are Still Here: Afghan Women on Courage, Freedom, and the Fight to Be Heard」でも複数のアフガニスタン出身の女性たちの声を通して彼女たちがインターネットを利用したり外国の民間人の支援を受けて教育を受ける権利や仕事をして収入を得る権利を守ろうと闘っている様子が描かれており、本書と並んで読まれて欲しい。