Richard O. Prum著「Performance All the Way Down: Genes, Development, and Sexual Difference」

Performance All the Way Down

Richard O. Prum著「Performance All the Way Down: Genes, Development, and Sexual Difference

鳥類の生物学的進化を専門とする自称「Pale(肌の色が浅い=白人)、Male(男性)、Yale(イェール大学教授)」の白人シスヘテロ男性が、さまざまな種にまたがる遺伝子研究やフェミニズム・クィア理論をジャグリングするみたいに大胆に使いつつ、人間の性差について「全てがパフォーマンス」と言い切る問題作。

生物学とクィア理論に分かりにくいところを組み合わせたみたいな文章で、どこまで理解しているか自信がないのだけど、要するに人間の男性とか女性とか言われるものは性自認を持ち出すまでもなく遺伝子と環境の影響が組み合わさるなかで成り立ったパフォーマンスである、という話。性別は性染色体で決まるとかSRY遺伝子の有無で決まるとかいろいろ言われるけれど、そのどれも身体がどう発達するか決定するものではなく、さまざまな生物学的および環境的な要因がコミュニケーションを取るなかパフォーマティヴに自己生成されていくものである、というのは、まあ分かるんだけど、そこにディスコースとかパフォーマンスという言葉を使うのがどうして良いのか、ちょっと分からないでいる。分かりにくくしているだけだろ、という思いとともに、そうした言葉の本来の意味を不自然に限定せずそのまま使っているだけ、という気もする。

正直、白人シスヘテロ男性の生物学者が書いた本にしてはフェミニズムやクィア理論をよく読み込んでいるな、と驚いたし、性分化疾患/DSD/インターセックスについての記述も生物学的にも社会的にも正確に書かれていて、書かれている内容は信頼できる。DSDの子どもに対する不要な手術への反対やトランスジェンダーやノンバイナリーの人たちのアイデンティティの尊重を訴えるにはもっと分かりやすいやり方がありそうにも思うけど、トランスジェンダーは生物学的に間違っている的なことを言う人にはこれを読ませておけばいいのかもしれない。てか表紙ダサ。