Paige McClanahan著「The New Tourist: Waking Up to the Power and Perils of Travel」

The New Tourist

Paige McClanahan著「The New Tourist: Waking Up to the Power and Perils of Travel

観光客・旅行者と観光産業についてさまざまな側面から考える本。

かつて人々は自分が行きたくても行けない遠い土地や文化に想像を膨らませつつ旅行記を読んでいたが、いまでは先進国では観光は自分でするものに。航空会社や鉄道、ホテルやレストランなどのホスピタリティ、現地ガイドに旅行ガイド本やサイト、リゾートや観光地の開発業者に広告産業などが関わる観光業界は、世界の人々の10人に1人は何らかの関わりを持つ世界の主要な産業の一つに。と同時に、自然破壊や現地の生活圏の圧迫、地元住民ではなく観光客に向けた開発計画や経済構造、観光産業への過度な依存などさまざまな問題も発生し、一部では植民地主義や軍事支配が観光産業によって置き換わり、そして継続される状況にも。

それらの問題から、インスタグラムなどソーシャルメディア向けに映える写真や有名人が撮ったのと同じ構図の写真を撮ることが目的化してしまった観光客の登場や、温暖化や環境破壊により失われつつある氷河などの絶景を見に行く(そしてそうすることで喪失を加速させる)「見納めツアー」など最近のトレンドまで触れつつ、著者は現地の自然と文化、歴史、住民たちの生活にリスペクトを向けた「新しい旅行者」の増加に期待をかける。いやいや現実見ろよどこにそんな希望あるんだよって思うけど、著者は本気らしい。これって工業的畜産へのオルタナティヴとして「より人道的な畜産」を推奨するのと同じで、個人の罪悪感は解消できたとしてもスケール的に考えて社会的な解決策にはならないやつじゃない?