Nury Turkel著「No Escape: The True Story of China’s Genocide of the Uyghurs」

No Escape

Nury Turkel著「No Escape: The True Story of China’s Genocide of the Uyghurs

文化大革命のなか新疆ウイグル自治区の収容所に収容されていた母のもとに生まれ、アメリカに帰化したウイグル人弁護士・人権活動家による本。著者はかれ自身やかれが支援してきたウイグル人難民・移民たちの経験について何度も議会で証言しており、政府の国際信仰の自由委員会にも任命されている。かつては独立を目指したりしない限りウイグル人にもそれなりの自由が認められていた時代もあったけれど、アメリカがはじめた「テロとの戦争」に便乗するかたちで中国共産党はウイグル人を国家への脅威と認定、宗教施設を破壊したり徹底的な監視を繰り広げ、「再教育」「職業訓練」の名のもとに強制収容や強制労働を実施。

もちろん政府による暗殺と思われる不審死や収容者の性的虐待などいかにもな弾圧や暴力もあるのだけれど、「友人になろう」という名前の政策によってウイグル人の家に中国政府の監視員が1週間寝泊まりするプログラムみたいに、日常に政府の監視と恣意的な処罰が入り込んでいるのが恐ろしすぎる。家族が海外に渡航しただけで潜在的に危険人物だとして追求されたり、あるいは海外にいるウイグル人たちに対して明らかに共産党によって脅迫された家族がネットを通して「帰ってきてくれ」と呼びかけたりするなど、家族の繋がりを使った支配も本当に怖い。

中国政府が行っていることは、中国政府自身が認めていたり公文書で明らかになっている部分だけを見ても、十分にジェノサイド条約で定義されたジェノサイドの要件を満たしているように見えるけれど、この条約には十分な対抗策も前例もなくあまり役に立っていない。その点、強制労働に関する国際法はより整備が進んでおり、だから新疆ウイグル自治区における人権侵害のなかでも強制労働については対策が進んでいて、たとえば新疆ウイグル自治区で生産された綿やトマトに対するボイコットが世界的に広まったほか、シャープやパナソニックなど日本やアメリカや韓国の企業を生産撤退に追い込んだば新疆ウイグル自治区でのソーラーパネルの生産についても強制労働や奴隷労働の存在が追求されている。

先日読んだBruce J. Dickson著「The Party and the People: Chinese Politics in the 21st Century」では中国共産党が欧米型の民主主義を否定しつつも、住民たちが抱える身近な不満についてはうまく応えて人々の支持を取り付けていることが紹介されていたけれども、ウイグル人に対してはこうした懐柔姿勢は取られない。もちろんなかには政府によって取り立てられ住民の監視に協力するウイグル人もいるけれど、ちょっとしたきっかけでかれらもすぐに収容所に入れられる側になる。

著者は一般の中国人たちはウイグルの現状について知らされておらず、政府の宣伝によって自分たちウイグル人人権活動家たちはアルカイダと関係したテロリストなのだと信じ込まされている、として、いつか一般の中国人たちも真実に気づき、ショックを受け、共産党の犯罪を追求するだろう、と希望をもって書いている。そうした変化が中国国内で起きるまで、強制労働による生産物のボイコットなど、ウイグル人やその他の迫害されているマイノリティに対する国際的な関心と支援が必要。人権問題を貿易交渉で優位に立つためのチップとして利用するだけ利用して放り投げたトランプ政権のやり口ではなくて。