Michael Brooks著「Against the Web: A Cosmopolitan Answer to the New Right」

Against the Web

Michael Brooks著「Against the Web: A Cosmopolitan Answer to the New Right」

リベラル知識人によるイデオロギー的な知の独占と不寛容を批判し言論の自由を訴えている、と自己規定している、いわゆる「インテレクチュアル・ダーク・ウェブ」を社会主義インターナショナリズムの立場から批判する2020年の本。タリバンへの評価とかすでに話題の一部は時代遅れになってるし、インテレクチュアル・ダーク・ウェブという言葉自体が既にピークを過ぎてしまっているけど、図書館に入ってきたのを見かけたし短い(82ページ)のでサクッと読んでみた。

要約すると、まあ基本インテレクチュアル・ダーク・ウェブというのは白人至上主義や西洋中心主義のような既存の権力関係を擁護しながら差別主義者ではないとレトリックを弄していかにも思慮深いみたいにカッコつけてる連中だ、って話で、まあそりゃそうなんだけど、かれらがマルクス主義とポストモダニズムとアイデンティティ政治をごちゃまぜに混同していたり、現実に非白人に対して起きている暴力や迫害を無視したりかれらによって欧米的な価値観が脅かされる危険を叫んでそうした暴力を正当化するような主張をしていることが、IDWの主要な論者を引用しつつ批判されている。特に馬鹿な発言や目立った失言だけを選んでいるのではなく、実際にかれらの主張の中心的な認識や前提を批判対象としているあたりからは、著者の誠実さが見える。

いっぽう著者が、左派はコメディアンをキャンセルしたり保守的な大学教授を批判したりすることに集中しすぎていて、戦争を止めたり国民皆保険制度を実現するなど本来集中すべきことをおざなりにしている、として、マイノリティではなくマジョリティにとって利益になるような運動を展開すべきだ、というのは白人男性左翼あるあるか。

そもそも「インテレクチュアル・ダーク・ウェブ」という言葉は、ワシントン州オリンピアにあるエヴァーグリーン大学で2017年に起きたレイシズムをめぐる衝突で、反レイシズムの呼びかけに反発した白人男性の生物学者ブレット・ワインスタインが同大学を辞職したあと、ピーター・ティールの元で働いていたかれの兄エリック・ワインスタインが考案したもの。ワインスタイン兄弟はその後ポッドキャストなどでIDWの考えを広めたが、著者はエヴァーグリーン大学の学生や大学当局が余計なことをしなければこんなことにならなかったのに、と言う。しかしわたしは実際に当時エヴァーグリーン大学にいた人を複数知っているけれども、あのとき大学には極右暴力集団プラウド・ボーイズが殴り込んできたり黒人の教員らに片っ端から脅迫状が届いていた状況で、黒人の学生や教員らが黙っていれば何も問題なかったというのは事実にも反するし犠牲者非難も甚だしい。

それを「左派が下手に動いたせいで右派に口実を与えてしまった、もっと保守的な意見に寛容になるべきだ」というのは絶対違うと思う。てか82ページで良かった。100ページ以上あったら途中で読むのやめてたよ。