Andy Campbell著「We Are Proud Boys: How a Right-Wing Street Gang Ushered in a New Era of American Extremism」

We Are Proud Boys

Andy Campbell著「We Are Proud Boys: How a Right-Wing Street Gang Ushered in a New Era of American Extremism

トランプ時代を象徴する極右暴力団体であり2021年1月の連邦議事堂占拠事件にもあらかじめ計画的に関わっていたプラウド・ボーイズについての本。

現在では主流派オンラインメディアとなったヴァイス・メディアの創業者の一人であるギャヴィン・マキネスが極右ネットトーク番組で人気を得たうえでプラウド・ボーイズを創設したのは2016年。グループの名前は、かれが親として参加した子どもの学校の学芸会でプエルトリコ系の男の子が歌ったディズニー映画「アラジン」の中の「Proud of Your Boy」という歌のタイトルから。あんなゲイっぽい歌初めて聴いた、シングルマザーの子どもに違いない、と勝手に決めつけたうえでその子をバッシングしたことが視聴者とのあいだで内輪ネタとして定着し、ついにはマキネスが創設するグループの名前につけられることに。

トランプの大統領選挙立候補に呼応して各地でたくさん登場したオルト・ライト的な極右団体のなかでプラウドボーイズが特異だったのは、マキネスが暴力を積極的に肯定していた点。ほかの団体の多くは銃で武装しつつも少なくとも公的には進んで暴力をふるうことを宣伝しなかったのに対し、マキネスはISIS戦闘員の処刑動画やユダヤ人虐殺の画像を拡散するとともに「もっとこのような暴力が必要だ」と力説した。当時のこうした番組の動画はいまでもネットで観ることができる。プラウドボーイズはレイシストであることを否認するいっぽう西欧優越主義者であると自認するほか、フェミニズムやクィア&トランス運動、ブラック・ライヴズ・マター運動などを敵視し、人種差別的・反移民・反クィア&トランス・女性差別的な行動が広く報道されている。

プラウドボーイズではメンバーに階級があり、レベル1から4まで段階的により内部の情報や戦略へのアクセスを得られるようになっている。ソーシャルメディアや個人的な関係などにおいて西欧優越主義者であることを宣言することで後に引けない状況を作り出す第一段階から、プラウドボーイズの目的のために暴力をふるうか逮捕される第四段階まであり、のちに第四段階は廃止されたと公的には発表されたものの、内部で認められるためには暴力に参加する必要があるという風潮は変わっていない。こうした内情は、潜入捜査をしたアンティファ活動家や調査報道ジャーナリスト、そして「分散型秘密妨害攻撃」(DDoS)を名乗るハッカーグループなどの活動や、プラウドボーイズ自身による情報管理の甘さ(幹部の実名を黒塗りにした文書をメディア向けに発表するも、簡単に黒塗りを取り除ける状態だった、など)によって明らかにされてきた。

プラウドボーイズは近年もっとも急速に勢力を拡大した極右暴力団体だけれど、その成長を許してしまった背景には、マキネスによる巧妙なメディア利用・メディア操作と、マキネスのあとにリーダーとなったエンリケ・タリオがもたらした共和党とのコネクション、そしてブラック・ライヴズ・マター運動を敵視する警察組織の支援があった。メディアに関しては、内輪向けのネット番組では暴力肯定や悪質な差別発言を隠そうともしないのに、それらを無視して「愛国者の友愛グループ」という当人たちの言い分を無批判に報道したり、はじめから暴力をふるうことを目的にブラック・ライヴズ・マター運動に襲いかかるプラウドボーイズとかれらを守ろうとするアンティファの衝突を「差別主義者と反差別運動」ではなく「右派と左派の暴力的闘争」と並列することでプラウドボーイズの宣伝に加担する主流メディアが多いなか、右派メディアではプラウドボーイズやかれらと行動をともにするアンディ・ノーら自称ジャーナリストによる反差別運動への攻撃が無批判に報道された。

プラウドボーイズのフロリダ支部で活動していたエンリケ・タリオの役割も大きい。タリオはプラウドボーイズに参加する以前からフロリダ州共和党で活動しており、州議会議員選挙に立候補したこともあるほか、トランプの最も古参の側近の一人であるロジャー・ストーンと親しい関係にあり、トランプ政権と直接の繋がりを持つことができた。また2013年に発足したブラック・ライヴズ・マター運動は各地で警察による黒人の殺害に抗議を繰り返していたこともあり、プラウドボーイズがブラック・ライヴズ・マターに対抗するデモや暴力的攻撃をはじめると、そこにプラウドボーイズと警察組織とのあいだの連帯が生まれた。とくにポートランドではブラック・ライヴズ・マターやアンティファとプラウドボーイズが向き合ったときに警察がプラウドボーイズを守るような行動を取ったり、アンティファ活動家の位置を警察がプラウドボーイズと共有するなど明白な協力関係が生まれ、その結果プラウドボーイズはなんの制約も受けないまま数年にわたってポートランドでの示威行動や挑発を繰り返した。

2021年1月の議事堂占拠事件では、プラウドボーイズはその何週間も前から暴力行動を計画、チャットでバイデンの大統領当選を認定する議会の集まりがどこで開かれるかなどの情報を共有するとともに、それまでの親警察的な立場を変更してDC警察に対する攻撃の必要性を語り、具体的な侵入計画の議論もしていたが、そのチャットは政府によって傍受されており、タリオは事件の前日に別件で逮捕された。その別件というのはタリオが仲間を率いてワシントンDC内の複数の黒人教会に飾られていたブラック・ライヴズ・マターの旗を盗み出し焼いたこと、そして密売するための銃を銃規制が厳しいDCに持ち込んで所持していたという件だけれど、その後タリオは昔詐欺組織に関わっていたときに自分の罪を軽くするかわりにFBIのために組織の情報を漏らしていたことが明らかになり、占拠事件に関わるのを避けるためにわざと逮捕されたのではという疑惑も囁かれた。

このように議事堂占拠事件いらい内部に混乱が見られるプラウドボーイズだけれど、いまでも右派メディアやロジャー・ストーン周辺には擁護されたまま、妊娠中絶を行うクリニックへの抗議集会や反人種差別教育やトランスジェンダーの生徒の扱いを議論する教育委員会などに参加するなど、各地でさまざまな現場で活動を続けている。また、プラウドボーイズ自体が今後どうなろうとも、かれらが政治論争における暴力を一般化させ、とくに反差別運動に対する暴力行使を正当化する風潮を生み出した影響はこれからも残る。

少なくとも議事堂占拠事件が起きるまでは政府も警察もプラウドボーイズの危険性を軽視するか、むしろ側面から支援するような態度を取るなか、かれらに抵抗してきたアンティファ活動家や調査報道ジャーナリストやハッカー集団の活動がどれだけ重要だったか再認識させられた。プラウドボーイズに潜入した人の話で特におもしろかったのは、プラウドボーイズは男性だけの組織だけれどその周辺にプラウドボーイズに惹かれる女性たちが集まっており、そのなかに潜入した女性活動家の話。詳しくは読んで。あと、プラウドボーイズによるクラウドファンディングのデータをハッカー集団が入手したのだけれど、その際の大口寄付の8割が中国系の名前の人たちによるもので、中国系アメリカ人コミュニティの一部でプラウドボーイズに対する支持が広がっているというのは、中国系コミュニティがアファーマティヴアクション反対運動など反黒人主義的な行動が目立ち初めているのもともに気になる。