
Nora Neus著「24 Hours at the Capitol: An Oral History of the January 6th Insurrection」
第一次政権末期のトランプ大統領が自身が落選した2020年の選挙結果を覆そうと支持者を扇動し議会を襲撃させ、ペンス副大統領らを抹殺しようとした1/6連邦議事堂襲撃事件から5年。このタイミングに合わせてあの日起きたことを記した本がいくつか出版されているなか、この事件の前哨戦とも考えられる2017年のシャーロッツビル白人至上主義者大集結・カウンタープロテスター殺害事件が起きた1日を当事者たちの証言から再構成した「24 Hours in Charlottesville: An Oral History of the Stand Against White Supremacy」を書いたNora Neusが同じ形式で1/6事件について本を出していたので読んだ。
全国から白人至上主義者や極右らが集結し、自分たちの言いなりにならない人たちに襲いかかり、警察がなかば黙認するかのように消極的な態度を取るなか、暴力によって社会をひっくり返そうとした2つの事件は繋がっていると著者は指摘する。かれらはシャーロッツビルで敗北し、連邦議事堂でも敗北したかのように見えたが、それらを後押ししたトランプは生き残り4年後に再び大統領に就任、1/6参加者たちはトランプによる恩赦を受け釈放され、白人至上主義者たちは復讐とばかりに移民や非白人、クィアやトランスの人たちに連邦政府を使って攻撃を続けている。アメリカの今の現状は、シャーロッツビルと連邦議事堂の2つの事件を教訓とすることに失敗し、白人至上主義者たちの復権を許してしまったことから生じている。
さて本書はシャーロッツビルの事件についてまとめられた前著と同じく、1/6事件を経験した議員や議会職員、警察官、その他大勢の人たちの証言や捜査資料などさまざまなソースをもとに時間ごとに何が起きたのか再構成している。また著者は、白人至上主義者や暴動の参加者の声をいま以上に拡散するべきではない、スポットライトを浴びさせるべきではないとして、かれらに対する新たなインタビューは行っていないが、下院特別委員会による調査や裁判資料、当時のソーシャルメディアへの投稿などからかれらが何を考えていたのか、どう行動したのかも明らかにする。
すでに良く知られた事件だけに新たな発見はないものの、ボディガードによって守られた副大統領や議員たちと異なりなんの保護もないまま暴徒が迫る建物の中に取り残された議員スタッフや議事堂内の食堂などで働く人たち、そして暴徒が排除されたあとの議事堂に議員たちが速やかに復帰し大統領選挙の結果の承認を行えるように清掃した労働者たちにも注目されているのは良いところ。議会の運営を支える一般の労働者は黒人が多数を占めるが、警察によって使われた催涙ガスなどの化学薬品によって健康を害され、また大して守られもせず使い捨てにされたと感じ、事件後に退職していった人も少なくない。
事件から5年がたったが、トランプに対する責任追求をきっちり行えなかった結果、ありえない状況なんだけれども、いまだに2020年の大統領選挙の勝者は誰だったのか、1/6事件は違法なクーデター未遂だったのか民主主義を守るために愛国者たちが起こした平和的な行動だったのか、意見が割れてしまっている。大統領としての影響力を利用して暴徒を扇動しクーデター未遂を起こしても大丈夫なのであれば、そりゃあトランプは国内でも海外でも軍や移民局を使って何やっても問題ないと考えるでしょうよ。トランプはそのうち大統領の地位を去るし、仮に無理やり続けようとしてもいずれは寿命が尽きるだろうけれど、1/6事件について事実に基づいた認識が共有されない限りアメリカの混迷は終わらない。