
Jacob Soboroff著「Firestorm: The Great Los Angeles Fires and America’s New Age of Disaster」
2025年1月、バイデン政権も残すところあと約2週間が残るタイミングでロサンゼルス近郊の高級住宅地パシフィック・パリセーズを中心に起きた大火災について、パリセーズ出身のテレビジャーナリストが書いた本。出版されたのは火災発生から364日後。
パシフィック・パリセーズ、通称パリセーズはロサンゼルス周辺のなかでも世帯収入が高く、白人人口が多い街。普段は都市にありがちな多くの問題から守られた排他的なコミュニティだが、さまざまな要因が重なり市街地や住宅街95km2が燃えるカリフォルニア史上最も大きな市街ににおける火災となった。民主党のニューサム知事はすかさずバイデン大統領に支援を要請し、バイデンもそれに応えようとしたものの、選挙で当選しほんの少しで大統領に就任することが決まっていたトランプ元大統領は火災の原因は民主党による環境政策にあると攻撃をはじめる。トランプは、ニューサムは野生の魚を守るために南カリフォルニアに回せる水をあえて堰き止めて火災を引き起こした、いまも消化に使える水を回そうとしない、と批判したが、ニューサムが政策的に保護した水源は遠く離れていたし、水道や消防車のキャパシティを無視していきなり消化に回せるはずもない。
サンディフック小学校における銃乱射事件はフェイクだと主張し子どもを失った親たちを「金で雇われた役者」だと攻撃した極右陰謀論者アレックス・ジョーンズは大火災はトランプ政権の発足を前に混沌を生み出すために民主党が意図的に起こしたものだと主張、トランプの当選に貢献し政権交代後には「政府効率化省」を率いて連邦政府の解体に乗り出すことになるイーロン・マスクがそれに賛同・拡散したことで、ニューサム知事は火災への対処と同時に陰謀論の拡散やそれを信じた住民たちによる妨害への対処も同時に進めざるをえないことになる。最終的に火災は鎮火できたけれども、陰謀論と政府不信は今後もあとを引き、気候変動対策など将来の災害を予防するための政策の実現を難しくしている。
本書ではパリセーズで育った著者の思い出や街に対する思い入れが繰り返し語られていて、自分が育った街が焼けてしまい、思い出の場所が見る影もなくなってしまったことの虚しさは理解できるのだけど、パリセーズは裕福な白人な多い街だけど周囲の(パリセーズには住むことができない)非白人たちが(パリセーズに住む白人たちの使用人として)働くために来ていたから多様な街だった、みたいな書き方があって、いやいやなに言ってんの?と。ようやく最後の部分で、著者の父親を含めパリセーズの住民は裕福で政治的にも力のある人が多いから政府に忘れ去られることもなく復興も進むだろう、同じように災害に見舞われても支援を受けられず放置される地域もある、という点はきちんと言及していて安心。
しかしまあ本書で一番興味深いのは、現地に入り取材をしていた著者に第一次トランプ政権で国土安全保障省のスポークスパーソンをしていたケイティ・ミラー(第一次政権当時はケイティ・ワルデマン)から突然連絡があった、という部分。第一次トランプ政権当時、著者はメキシコとの国境を超えて難民申請をしてくる移民たちの家族を引き離し、大した記録も残さないまま子どもと親を引き離すトランプの政策について取材しており、そのなかで彼女ともやり取りがあったけれど、そのうち著者は政権から無視されるようになり連絡も途絶えていた。しかしミラーは火災の取材をしていた著者に数年ぶりに連絡し、あるパリセーズの住所を伝え、その家がどうなっているのか見てきてくれ、と一方的に要請。行ってみると全焼していたけれど、その家は彼女の夫でありトランプ政権の反移民政策を主導していた(いまもしている)スティーヴン・ミラーの両親の家だった。
ちなみにこのケイティ・ミラーは国土安全保障省を経てマイク・ペンス副大統領の首席広報官になったものの、2020年の大統領選挙の結果をひっくり返すのに協力しろというトランプの要望をペンス副大統領が断ったことからペンスを離れ、直後にスティーヴン・ミラーと結婚。トランプが二度目の大統領に就任するとイーロン・マスクの政府効率化省に加わるが、数カ月後マスクとともに政権を離れてマスクの部下になると、「スティーヴン・ミラーが妻をマスクに寝取られた」とゴシップになる。でもまあその後マスクがトランプと対立したことでマスクから離れ、いまでは保守インフルエンサーに。最近でもグリーンランドの地図をアメリカ国旗のデザインにした画像を公開して国際的に顰蹙を買っていた。まあいろいろお騒がせな人だけど、夫の両親の家を心配して連絡してきた時には著者も同情を感じて対応したのに、やっぱりその後返事は来なくなったらしい。うん知ってた、そういう連中だよやつらは。
各章は時系列を追って構成されており、各章それぞれのタイトルはその章に出てきた言葉の引用がつけられているのだけど、「Oh no!」とか内容が分からないものが多くてもうちょっとなんとかできなかったのかとは思う。執筆されてから出版されるまでにも普通は最低でも数カ月かかることを考えると、火災発生から1年、鎮火からは約11ヶ月で出版にこぎ着けたのは仕事が早いなあと思ったけど、もうちょっとだけ時間をかけても良かったのではとも思う。