Belén Fernández著「The Darién Gap: A Reporter’s Journey Through the Deadly Crossroads of the Americas」

The Darién Gap

Belén Fernández著「The Darién Gap: A Reporter’s Journey Through the Deadly Crossroads of the Americas

中米と南米を結ぶパナマ・ダリエン地峡における帝国主義の歴史を紐解くとともに、その100km以上に及ぶ熱帯雨林や沼地を徒歩でわたりアメリカを目指すさまざまな国籍の難民や移民たちに現地で取材し寄り添いつつ、アメリカの移民政策が自国だけでなく周囲の国々にまでめぐらせている境界線を明らかにする本。著者はアル・ジャジーラで活躍するアメリカ生まれの女性ジャーナリスト。

アメリカでは2010年代中頃から多数の難民や移民たちが集団で中南米からアメリカに向けて移動している、これは外国人による組織的な侵略だ、という排外主義的な主張が広まったが、内戦や環境破壊・新自由主義による治安や経済の崩壊により故郷を離れた人たちが集団で移動するようになったのは個々での移動が危険極まりないものになったことに原因がある。難民や移民を標的とした誘拐や略奪、性暴力、殺害が頻発し、アメリカにたどり着く前に多くの人は命を落とす。道路がなく熱帯雨林や沼地でできているダリエン地峡ではさらに環境も人々に牙を剥き、生きて踏破した人たちは自身や家族が略奪や性暴力の被害を受けるだけでなく、多数の遺体を目撃し、あるいは踏み越えてきたトラウマをも抱えることになる。

著者は何度もダリエン地峡の周縁を訪れるなか、ヴェネズエラ人の男性と親しくなり、かれの移動を支援し部分的に同行する(というより著者の取材にかれが同行している)ことになる。はじめはどう見てもアメリカ人観光客にしか見えない服装をしていたせいで難民や移民たちだけでなく国際支援団体の人たちからも相手にされなかった著者だけれど、そのなかでたくさんの人たちからどうして命をかけて移動しなければならなかったのか、危険な環境からできる限り子どもを守るためになにをしているのか話を聞いていく。ダリエン地峡に挑む移民・難民の多くはヴェネズエラをはじめ国内情勢が逼迫している国の人たちだが、南米に入国するためのビザが取りやすい中国人をはじめ世界各地から人々が集まり、アメリカの国境にたどり着いて難民申請を提出することを目指す。

そうした難民や移民がアメリカにたどり着くことを阻止しようと、アメリカ政府は各国政府に働きかけて人々の移動を阻止しようとしたり、取り締まりのために使う軍備やテクノロジーを提供する。ある意味アメリカの国境は国の周辺だけでなく、中南米各国の中にまで存在するようなものだが、かれらがアメリカへの移動を目指す原因の多くはアメリカ政府によって支援された右派政権による新自由主義的な政策や国内少数派の弾圧、差は政権に対するアメリカの経済制裁、そしてアメリカ企業の利益のために引き起こされる資源採掘による環境破壊が原因であることは鑑みられない。多くの難民や移民は生きるために仕方なくアメリカへの移住を目指すのであり、情勢が改善されればいつか故郷に帰りたいと思っているが、難民や移民発生の原因を放置したままその移動だけを止めようとするアメリカの政策は人道危機を深刻化させるだけ。そういうなか、アメリカの右派インフルエンサーでトランプ政権にも強い影響力を持つローラ・ルーマーがクラウドファンディングでお金を集めパナマに取材旅行を行い、ダリエン地峡を踏破しようとする移民のなかに中国人がいることを「発見」、難民による集団的な移動は中国共産党がアメリカを不安定化させるために仕組んだ侵略行為だと大々的に宣伝したり。

わたしが本書を読んでいたその日、ちょうどトランプ政権がヴェネズエラに軍事侵攻し、100人を超えるヴェネズエラ人を殺害するとともに、独裁者とされるニコラス・マドゥロ大統領夫妻を誘拐しアメリカに連行していった。本書の序盤で触れられた1998年のパナマ侵攻とマヌエル・ノリエガ逮捕の部分がそれとそっくりだと思っていたらやっぱりさまざまな論者が比較に出していた。マドゥロが独裁者だからといってトランプによる軍事行動が国際法違反の許されない行為だというのは確実だけれど、目に見える軍事侵攻が起きていないときでも中南米は常に目に見えないかたちでアメリカ帝国主義の影響化にあり、ダリエン地峡で毎日起きている悲劇はその象徴の一つでもある。