Kyla Schuller著「The Trouble with White Women: A Counterhistory of Feminism」

The Trouble with White Women

Kyla Schuller著「The Trouble with White Women: A Counterhistory of Feminism

この数年増えてきた「白人フェミニズム」に対する批判の新しい本。著者自身も白人女性のフェミニストだけれど、以前も紹介したとおり「白人フェミニズム」とは「白人によるフェミニズム」のことでは必ずしもなく、白人女性たちの利害を中心に据えたフェミニズムのこと。対義語は「インターセクショナルフェミニズム」。

最初に書いたように最近「白人フェミニズム」についての本はいくつも出ていて、わたしが紹介した中にもRafia Zakaria著「Against White Feminism」やKoa Beck著「White Feminism」などがある。これらの本が増えてきた背景には、近年のブラック・ライブズ・マター運動によって白人フェミニズムに対する批判が高まってきたことだけではなく、2016年大統領選挙で白人女性の過半数がトランプを支持したことを受けたことにも関係していそう。

この本では、アメリカのフェミニズム史において「フェミニズム」として認識されてきた白人フェミニズムに対するカウンターヒストリーとしてのインターセクショナルなフェミニズムの歴史を、それぞれの時代における白人フェミニズムとインターセクショナルフェミニズムの双方の代表的な人物を紹介することで記述している。取り上げられているテーマは、女性参政権運動、奴隷制から解放された黒人や伝統的な土地から切り離された先住民たちの「文明化」、優生主義と家族計画運動、フェミニズムにおけるレズビアンやトランス女性や性労働者の扱い、そして現代社会における「リーン・イン」フェミニズムと女性への過度な要求など。運動のなかで重要な立場にあった個人を取り上げて彼女を中心に全体の動きを解説することは、ストーリーとしては読みやすくなるけど、個人の役割を過大評価するような気がして、ちょっと懸念は感じる。

本書がはっきりと主張しているのは、白人フェミニズムの問題は「非白人女性やトランス女性など、マイノリティ女性を擁護する対象から排除してきたこと」ではない、ということ。それぞれの時代において、白人フェミニズムはただ単に「白人女性のことしか考えていなかった」のではなく、直接マイノリティに対する迫害や抑圧に加担していた。「白人フェミニズム」を担ってきたさまざまな団体は「多様性」を重視するとして、非白人女性やその他のマイノリティを勧誘するとともに、彼女たちの意見を取り込もうとしているのだけれど、これまで彼女たちを単に無視してきたのではなく、積極的に彼女たちを攻撃してきた歴史に向き合い、根本にインターセクショナリティを据えないと同じ間違いを繰り返してしまう。というかそうしてきた。