Mallory O’Meara著「Girly Drinks: A World History of Women and Alcohol」

Girly Drinks

Mallory O’Meara著「Girly Drinks: A World History of Women and Alcohol

女性とアルコールの歴史についての本。タイトルの「ガーリードリンク」は女性向けとされるだいたい甘めの口当たりのいいカラフルなお酒(ドラマ「Sex and the City」で流行ったコスモとか)を指す言葉で、それらのお酒を好む女性や(特に)男性をからかうニュアンスもあるけれど、本書は「男性的」とされるものも含めさまざまなお酒の歴史に女性が深く関わってきたことを示し、全てのお酒は「ガーリードリンク」だと主張する。古代メソポタミア・エジプトから中国や日本などアジア、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカのそれぞれの文化でアルコールが作られ飲まれてきた歴史をたどり、多くの文化においてその生産が女性の役割とされてきたことや、女性が男性と並んでそれを飲んできたことが示される。

同時に、社会における性役割やジェンダー規範の影響により、時代によっては女性の飲酒が禁じられたり、醸造から排除されたりもした。日本語で醸造を担う職人を指すことば「杜氏」がもともと主婦を意味する言葉から発生したにも関わらず、女性は不浄だとか酒の精を怒らせるという理由で長らく女性が酒蔵に入れなかった歴史もその一例。女性が自分の飲酒だけでなく周囲の男性の行動にも責任を負わされてきた歴史も長く、現代の「薬を混入されないために自分の飲み物の入ったカップから目を離すな」というキャンペーン(「他人の飲み物に薬を混入するな」キャンペーンではなく)に繋がっている。19世紀末期から20世紀初頭に起きた断酒運動は同時期の女性参政権運動と連携して「男性の行動をコントロールする力がないのに責任だけ負わされていた」立場の女性たちによって担われていたような印象があるけれど、実際には断酒運動に反対していた女性活動家も多かったとも。禁酒法時代の闇酒場はそもそもが違法であり反モラル的であったので女性も入りやすかったというのは興味深い。

現代に近づくほどアメリカの話が中心になるのだけれど、そのなかでもレズビアンバーの歴史や最近流行っているお酒についての話が出てきておもしろかった。最終章には、全国的に消えつつあるレズビアンバーを応援する「レズビアンバー・プロジェクト」や、オハイオのバーで働くトランス女性ハーモニー・コランジェロさんがコロナ禍で閉鎖されたバーの同僚たちの収入を補填するために発売したカクテル本「A Year of Queer Cocktails」の話も。わたしは一切お酒を飲まないのだけど(むかしダイクバーに出入りしていたころはそれこそガーリードリンク注文してちょっとだけ舌つけて飲んでるフリしてたw)、それでも楽しく読めたので、お酒が好きな女性はもっと楽しめるかも。