Timothy Egan著「A Fever in the Heartland: The Ku Klux Klan’s Plot to Take Over America, and the Woman Who Stopped Them」

A Fever in the Heartland

Timothy Egan著「A Fever in the Heartland: The Ku Klux Klan’s Plot to Take Over America, and the Woman Who Stopped Them

1920年代に全国に爆発的に広まったクー・クラックス・クラン(KKK)第二波がその中心地となったインディアナ州でどれだけ権力を奮っていたか、そしてそれをたった一人の女性の命を賭しての訴えが打ち砕いたかという歴史を伝える本。ちょうど100周年ということでこのところ1920年代についての書籍はプチブームっぽい。

南北戦争後に奴隷解放と黒人の公民権獲得に反発して生まれたKKKの第一波は、南北戦争で連邦軍(北軍)を将軍として率いたグラント大統領が中心となり徹底的な弾圧を行った結果、短期間で消滅した。その後、リコンストラクションの終了と白人至上主義の復権によりKKKを「暴れまわる野蛮な黒人から白人女性の純潔を守った英雄たち」として称賛する風潮が南部で広まったが、そのものずばりの『ザ・クランズマン』という小説を原作として1915年に公開された映画『The Birth of a Nation』(邦題『國民の創生』はウィルソン大統領のホワイトハウスでも上映会が開かれるなど大ヒットし、この価値観を全国に広げた。

映画に触発されKKKが復活した20世紀序盤には、すでに南部では黒人から権利を奪い隔離・管理する制度が完成していたこともあり、南部よりむしろほかの地域で支持を伸ばした。東部ではユダヤ人やカトリック系のアイルランドやイタリア人の移民排斥、中西部ではカトリック系移民に加え南部から移住してくる黒人たち排除、そして西部では中国人や日本人などアジア系移民の排斥を掲げるなど、KKK第二波は南部の黒人に加えそれぞれの地方で新たな敵をターゲットとした。当時KKKが最も多くの支持者を得たのは南部ではなく本書の舞台となるインディアナ州やそのとなりのオハイオ州やイリノイ州、そして西部のオレゴン州などだった。

インディアナ州でKKKは全国随一の会員数を誇り、各地の市長や議員だけでなく警察署長や警察官、検察官、判事、そして教会の牧師たちまで、KKKのメンバーかその支援者でない人はその地位に就けないほどだった。その中心にいたのがインディアナのKKKのリーダーとなったD.C.スティーブンソンという人物で、テキサス出身ながら持ち前のカリスマと詐欺の能力で多くの政治家や警察・司法まで支配下に起き、ゆくゆくはKKKによるアメリカ全土の支配、そしてアメリカ大統領を目指していた。スティーブンソンは一方ではKKKの信念として禁酒や性道徳を説きながら、実際には頻繁にパーティを開いてアルコールを飲み騙して連れ込んだり無理やり連れてきた女性たちに性的暴行を行っていたが、警察や裁判官まで手下に置いていたかれは無敵だった。

そのスティーブンソンの責任が問われたのは、マッジ・オーベルホルツァーという教師をしていた女性の証言がきっかけだった。スティーブンソンは彼女を追い求め、失職仕掛けている彼女の職を守ってやることができる、という口実で彼女を食事に誘うなど、交流を持つ。そしてある時彼女はスティーブンソンに呼び出され、かれの家に行くと無理やりアルコールを飲まされ銃を突きつけられ、そのままシカゴに鉄道で向かうスティーブンソンに誘拐された。道中スティーブンソンにより暴力的にレイプされた彼女は、逃げられないなか自殺を試みるも思い直し医療を受けさせてくれと要望、しかしスティーブンソンはそれを拒否し、彼女は重体に陥る。シカゴのあるイリノイ州に入ったあとでは自分の影響力が及ばない可能性があるためスティーブンソンはインディアナ州にいるうちに彼女を自宅に送り届けさせたが、彼女はそれから約一ヶ月後に亡くなってしまう。

しかし亡くなるまえに彼女はなにが起きたかを詳しく証言し、法的書類として残す。両親の訴えもありKKKの息がかかっていない数少ない検察官によってスティーブンソンは逮捕・起訴された。留置所ではVIP待遇を受けて自由に喫煙も飲酒もできた(禁酒法時代なのに)けれど、陪審は第二級殺人罪で有罪を宣告、また裁判のなかで彼女の証言が広まることで規律正しく道徳的で白人女性の純潔を守るというKKKのイメージが著しく崩されインディアナ州のKKKは支持者の大半を失った。州内の権力の大半を支配下に置き、いずれはアメリカ全土の権力を握ろうとしていた「見えざる帝国」の崩壊がこうしてはじまった。彼女の証言をきっかけにほかにも多数の女性がスティーブンソンによって暴行を受けていたことが発覚し、またほかの地域のKKK指導者たちも同じような犯罪で告発されていった。べつに驚かないけどこいつらまじどうしようもねーな!

黒人やユダヤ人や移民の排斥を掲げた運動がそれらの主張を人々に否定されたからではなく「白人女性を守るはずの団体が実際には女性たちに暴力をふるっていた」という理由で崩壊した、という事実には複雑な思いがあるけれど、死を覚悟したマッジさんが正義を求めて証言した勇気は単純にすごい。スティーブンソンが有罪判決を受けた法廷には裁判を記念したプレートが展示されているらしいけど、マッジさんの勇気を記念するプレートも必要だとする著者に賛成したい。