John Feinstein著「Raise a Fist, Take a Knee: Race and the Illusion of Progress in Modern Sports」

Raise a Fist, Take a Knee

John Feinstein著「Raise a Fist, Take a Knee: Race and the Illusion of Progress in Modern Sports

多数のプロアスリートへの取材に基づいた、メジャースポーツにおける人種差別についての本。著者はワシントン・ポスト紙にスポーツコラムを持つ白人男性のスポーツライター。2016年にNFLのコリン・キャパニック選手が始めた試合前の国歌斉唱の際に膝を付く抗議活動にキャパニックの行動への支持を早くから表明し、右派からかなり叩かれたらしい。わたしはこの本の副題の「現代スポーツにおける進歩という幻想」という部分に特に興味を持って読んだのだけれど、期待したような鋭い指摘はなかった。去年ブラック・ライブズ・マター運動に多くのアスリートが賛同したり、それにリーグや国際機関が支持を表明したりして、物事が進展しているようなイメージがあるけれど実際は〜、みたいな話を期待してたんだけど、どうやらかれはただ単に「スポーツ界では既に人種平等が実現しているというのは幻想だ」と言いたかっただけみたい。なんかがっかり。

本の最初の半分くらいは(アメリカン)フットボールの話で、チームの頭脳かつ司令塔であるクォーターバックのポジションから黒人が長く排除されてきた、という話が延々と続く。高校や大学では学生のほとんどが黒人の学校では当たり前に黒人選手がクォーターバックをやっているけど、プロに入る際に「クォーターバックのイメージに合わない、ファンがついてこない」と言われてポジション変更を強いられると。近年になってキャパニックほか黒人クォーターバックも増えてきたけれども、監督やフロントはいまでも白人男性が圧倒的に多く、黒人はめったに機会が与えられないばかりか、ほんの少し結果が出せないだけですぐクビになる。

本の後半ではバスケットボール、野球、テニス、ゴルフ、ホッケーが取り上げられているのだけれど、フットボールについての話に比べて圧倒的に内容が薄くなる。女子スポーツについてはプロとして成り立っているものも含めてほとんど話が出て来ず、テニスのセリーナ&ヴィーナス・ウィリアムズ姉妹の名前が出てくるだけ。フットボールにおけるレイシズムについての本にしておいたほうが良かったんじゃないの?と思う。

黒人アスリートたちが日常経験している人種差別についての話も出てくるのだけれど、有名プロアスリートに取材しているせいか、だいたい「高級車を運転していたら盗難車と間違われて警察に止められた」エピソード。黒人アスリートたちが白人スポーツ記者に対して一番伝わりやすそうなエピソードを紹介した結果こうなってしまったのかもしれないけど、高級車を買えない大多数の黒人たちが経験している人種差別とは切り離されて、「成功して有名になり大金を稼いでいる人が差別されるのはおかしい」という話になってしまいそう。あと、同じエピソードがまったく同じ表現で何度も何度も出てくるパターンが多くて、もうちょっとまとめて欲しかった気がする。

とまあいろいろ文句は言ってしまったけど、普段から黒人に対する差別についてたくさんの本を読んで、運動にも関わっているわたしのような読者は、そもそも想定されていないんだと思う。熱狂的なスポーツファン(特にフットボールファン)なら、過去と現在の有名選手や有名監督のエピソードがたくさんでてきて興味を持ちそうだし、これまで人種差別についてあまり考えてこなかった白人スポーツファンに対して有効なのかもしれない。わたしにとってそれらのエピソードは知らない人の知らない話の羅列でしかなかったけど。(かろうじて日本の野球のロッテで監督をしていたボビー・ヴァレンタインの名前は知ってた。けど、ファンの人種差別的なヤジに対して暴言で反論した黒人選手に「謝罪しろ」と強要し、それを拒否した選手を干したうえで他球団にトレードした、というイヤなエピソードだった。)