Kit Myers著「The Violence of Love: Race, Family, and Adoption in the United States」

The Violence of Love

Kit Myers著「The Violence of Love: Race, Family, and Adoption in the United States

アメリカの白人家庭による国内の黒人や先住民の子どもの養子引き取りやアジアやアフリカからの国際的養子縁組についての研究書。家庭を必要としている子どもを親の愛情が救うという肯定的なイメージに対して、実際に白人家庭で育てられることになった非白人の子どもたちの経験や、子どもたちが自分が生まれたコミュニティや国で育つことができなくなった根本的な理由などを提示し、「親の愛情」の暴力性を指摘する。カリフォルニア大学出版部からオープンアクセスでダウンロード可

著者自身も香港出身でアメリカ・オレゴン州の田舎の白人家庭に引き取られ育てられたのち、同様の境遇にある子どもたちのためのサマーキャンプに参加したり、のちにそのスタッフとして多くの子どもたちと触れ合った経験がある。白人家庭に育てられた非白人の子どもたちの中には、白人だらけのコミュニティや親戚の中で孤独を感じたり、戦争や貧困によって自分を生んでくれた親やコミュニティとの繋がりを断ち切られたことに怒りを感じる人も多いが、著者は反アジア人的なステレオタイプを内面化しつつも、それなりに愛情を感じて育った。

白人家庭で育てられた非白人の子どもたちにとって大きな問題なのは、愛情の欠如ではなく、私的な愛情が社会的な不公正や暴力ときっちり結びついていることだ。たとえば非白人の子どもを育てる白人の親たちはよく、自分の子どもに自分のルーツと繋がる文化を経験させてあげたいと、アジアやアフリカの文化に関連したイベントに親子で参加するなどそれなりの努力をしている。しかし実際にはかれらはそうした文化についてよく理解していないことが多く、アジアやアフリカのさまざまな文化を混同したり間違った形で教えてしまったり、またアジアやアフリカの文化をそれらを伝えているアジアやアフリカの人たちやコミュニティから切り離して消費対象として扱ってしまうことにもなる。

白人家庭による非白人の子どもの引き受けについては、子どもを提供させられるそれぞれのコミュニティからさまざまな異論が出されている。白人家庭が養子を引き取る際に支払う「寄付金」目当ての誘拐や子どもの売買が一部で横行していたり、アメリカ軍が介入した紛争やアメリカの政策によって生じた経済危機の結果として孤児となった子どもたちを「救う」自作自演の善意への反感、社会政策によって生み出された困窮を口実に黒人や先住民の親やコミュニティには子どもを育てる資格がないとして子どもを取り上げ白人家庭に分配することの不公正など、問題点は多々。だからこそ全国黒人ソーシャルワーカー協会は黒人の子どもを白人家庭に養子に出すことに反対したし、先住民部族は単なるマイノリティとしてではなく主権国家として自分たちの子どもが誰に育てられるか決める権利を主張している。

ちなみに白人家庭による非白人の子どもの養子引き取りは、わたしがむかし研究トピックの一つとしていたことがあって、2006年に書いたブログ記事「『完璧な愛』が隠蔽する国際養子制度の帝国主義的歴史」で見落とされがちな論点について詳しく取り上げている。ブログ記事でわたしが引用したドロシー・ロバーツはさらに議論を進めた本「Torn Apart: How the Child Welfare System Destroys Black Families—and How Abolition Can Build a Safer World」を2023年に出しており、本書でもそれが引用されている。