Geoffrey Mak著「Mean Boys: A Personal History」

Mean Boys

Geoffrey Mak著「Mean Boys: A Personal History

福音派キリスト教の牧師を父に持つ中国系アメリカ人でゲイの著者が、両親との関係、ライターとして専門とするスタイルやファッションの話、長期滞在したベルリンでのゲイ・ナイトライフの経験などさまざまなトピックについて綴ったエッセイ集。

全体的に言葉にならない感情の揺れ動きをイメージとして伝えるのがうまいな、と思うのだけれど、わたし的にとくに面白いエッセイは2つ。1つは父との関係についてのもので、もともとコンピュータエンジニアとしてアメリカに移住した父がある時とつぜん神からのメッセージに目覚めて牧師となり、中国系教会を率いてトランプを応援しゲイ・バッシングを行うようになった父が、ゲイである息子から連絡を絶たれたあとでまたとつぜん別のメッセージを神から受け取って「ゲイを排除するのは間違っていた、自分の使命はゲイやレズビアンの人たちに神の教えを広めることだ」と言って言い寄ってきたりとか、いやまず謝れよ、そして教会のメンバーの前でゲイ・バッシングは間違っていたと発表しろよ、と思うのだけどいろいろ複雑。

もう1つのエッセイは2014年に女性嫌悪をこじらせてカリフォルニア大学サンタバーバラ校のソロリティハウス(社交クラブのメンバーである女子学生がまとまって住んでいる建物)で銃乱射事件を起こしたエリオット・ロジャースに自身を重ね合わせて語るもの。ロジャースは女性にもてないことから女性、とくに白人女性を敵視し、犯行前には「間違った相手を選ぶ」白人女性や、本来ならアジア人と白人のミックスである自分にこそふさわしい白人女性を横取りするほかのアジア人や黒人らへの敵意を表明する長文の声明や動画を公開していた。ロジャースは自分のものにならない白人女性たちを嫌悪しながら、自分がモテモテになることよりはかれの劣等感を刺激する彼女たちがいなくなることを求めていた。

事件のあと、ロジャースはLaura Bates著「Men Who Hate Women: From incels to pickup artists, the truth about extreme misogyny and how it affects us all」で解説されているようなミソジニーをこじらせた男性たちによるネット上のコミュニティで共感を集め、非モテ男の聖人とまで呼ばれるようになったが、著者がロジャースに自身を重ね合わせるのはもちろんそのミソジニーやレイシズムに共感したからではない。そうではなく、アジア系としてアメリカ社会における居場所のなさ、性的に強者であることを求められる男性性の重圧、ロジャースはもてないことに悩み、著者は性暴力の被害を受けたあと性的な行為に気が乗らないようになった結果、期待される男性性を発揮できないことを補うために共通してファッションやスタイルに傾倒しアイテムを使った外見上のステータスを求めたことなど、ロジャースに「もしゲイでなかった場合の自分」を見出したようだ。