Gracie Gold著「Outofshapeworthlessloser: A Memoir of Figure Skating, F*cking Up, and Figuring It Out」

Outofshapeworthlessloser

Gracie Gold著「Outofshapeworthlessloser: A Memoir of Figure Skating, F*cking Up, and Figuring It Out

アメリカ代表女子フィギュアスケート選手として2014年のソチオリンピックで団体3位、個人4位の成績をおさめた著者の自叙伝。

「ゴールド」というスポーツ選手としてはおめでたい名字とブロンドに染めた髪を含め美しいとされた外見から人気を集め、若いうちからミシェル・クワン以来空席だったアメリカ人フィギュアスケートの女王としての活躍を期待された著者。しかし家庭では彼女と双子の妹のフィギュアスケートキャリアにすべてを捧げる母、ほかの女性と浮気を繰り返しただけでなく処方薬に依存し医者の地位を悪用して病院から薬を盗んで最終的にクビになった父から愛を受けずに育った。妹が選手を引退してからは、家庭内のいざこざを解決する重圧が妹だけに集中し、蚊帳の外に置かれた著者とも喧嘩してしまう。

性的な視線で見られたり外見で評価されることが多い女子スポーツのなかでも、フィギュアスケートは外見的な美しさが評価にストレートに影響する。また、成長して女性らしい体つきになったり体重を増やすと難しいジャンプができなくなるという理由で、ほかのスポーツにもまして体型や処女的なイメージの保持が義務付けられ、コーチやメディアによるセクハラ的な扱いも激しい。バイセクシュアルを自覚して女性と付き合うこともスポンサーへの配慮から公言できない。男性選手による性暴力の被害を受け協会に報告してもまったくなんの対応もしてもらえず、精神的に追い詰められても、やせ細った体型を維持していれば健康、少しでも体重が増えれば自己鍛錬が足りないと判断されるなか、著者は摂食障害を発症、自殺も考えるようになり治療プログラムを受けるために入院する。

本書では、家族の愛を感じられないまま少女時代をフィギュアスケートに捧げ、摂食障害だけでなく不安障害や自殺思慮に悩まされた著者が、自分を取り戻し、人になんと言われても自分のやりたいように競技人生の最後を飾ったうえで、指導者として子どもたちがより自由にフィギュアに親しめるようなクラスを率いるとともに、競技者たちのメンタルヘルスへの配慮を重視するよう訴えている。