Jennifer Keishin Armstrong著「So Fetch: The Making of Mean Girls (and Why We’Re Still So Obsessed with it)」

So Fetch

Jennifer Keishin Armstrong著「So Fetch: The Making of Mean Girls (and Why We’Re Still So Obsessed with it)

2004年の上映いらいカルト的な人気を誇り、2018年にはブロードウェイミュージカル版が公開、それを元にしたミュージカル映画版は2024年の現在公開中の伝説的なハイスクール映画「ミーン・ガールズ」についての本。ソーシャルメディアが広まる以前の映画ながら、スクールカーストの問題とそのなかで他の子たちとの比較やゴシップに悩み翻弄されながら友情を築いていく女子高校生たちを描いたこの作品は、現在の若い子たちにも人気。って19歳の子が昨日言ってた。

日本でこの映画がどの程度人気だったのか分からないので、どこまで説明したものか悩むのだけれど、リンジー・ローハンの出世作となった「ミーン・ガールズ」はとにかく画期的な映画だった。日本でも『女の子って、どうして傷つけあうの?––娘を守るために親ができること』として翻訳・出版されているロザリンド・ワイズマンのアドバイス本を参考に、サタデー・ナイト・ライブで人気のコメディアンであるティナ・フェイが脚本を書き教師としても出演した本作品では、ローハン演じる、それまで自宅学習を受けていて学校に通ったことがなかった主人公が、はじめて通った高校でカルチャーショックを受け、スクールカーストを攻略するため他人を陥れているうちに自分を見失い、そこから自分を取り戻すまでの成長を描く。他人と比較することやゴシップの不毛さ、外見や性規範を含めさまざまなプレッシャーを経験する女子がお互いを叩きあうのではなく支え合うことの大切さを訴える本作は、2000年代のポップ・フェミニズムを代表する作品とすらいえる。まあ基本、白人フェミニズムだけど。

本書は「ミーン・ガールズ」がどのように製作されたのか、主演のローハンや脚本のフェイだけでなくさまざまな役者やスタッフがどのように作品に関わりどういう影響を受けてきたのかを紹介したうえで、作品が社会に与えた影響や、作品内に多数散りばめられた名台詞がのちに発生したミーム文化にどう取り入れられてきたのか、などが分析される。制作秘話みたいな話は作品のファンとしては普通におもしろかった。『ミーン・ガールズ」のミームといえばオバマ大統領クリントン元国務長官もツイッターで引用するほどよく見かけるものだけれど、この作品がソーシャルメディアやミームが一般化するより以前の作品であることを思えば、その影響力の大きさが分かる。と同時に、作品内でのアジア人の生徒たちの扱いや、アフリカをひとまとめにして野生の動物に代表させるような描き方、拒食症や障害の扱いなど、いまの基準で見ればいろいろ足りない部分もある。わたしは今回、本書を読む前に再度映画を見直したのだけれど、やはりそういった部分が気になったし、製作者たちが当時「めちゃくちゃおもしろいジョーク」と考えていた展開のいくつかはいやいやそれはどうなの、と思った。

また、本作で人気を得たローハンがその後、本作品内に登場する「バーン・ブック」に負けないほどの悪意に満ちたタブロイドに追い回され、トラブルメーカーとして名指しされ、迷走した経緯についても、2000年代に同じようにメディアによって叩かれたブリトニー・スピアーズやパリス・ヒルトン、そしてそのスピアーズに酷い扱いをした元ボーイフレンドのジャスティン・ティンバーレイクとの共演で全国に胸を晒され一時期メディアから追放されたジャネット・ジャクソンら、当時のメディアの女性芸能人に対する不公平な扱いについても指摘。そうした不公平は、スピアーズやジャクソンがキャリアを失うなかティンバーレイクがなんのダメージも受けなかったことに象徴的。

本書が出版されたのはミュージカル映画が公開される前の週で、当然のことながらミュージカル映画の内容については取り上げられていなかったけれども、わたしが見たことのないミュージカル版については取り上げられていて、以前はジョークとして通ったけど2018年には通らなくなった部分がより面白いジョークに変更されていただけでなく、ポップカルチャーやミームのなかでこすられすぎて陳腐化したかつての名台詞の比重を下げ新たにシャープな台詞を追加していると書かれていて、以前からのファンのノスタルジアにアピールするのではなく新たなファンの獲得に向けて作品を更新していこうとする製作者らの意気込みが感じられる。この本を読んで「ミーン・ガールズ」のすごさを再確認したので、ともだちと近いうちミュージカル映画を見に行く約束をした。