June Thomas著「A Place of Our Own: Six Spaces That Shaped Queer Women’s Culture」
主に20世紀後半のアメリカで、レズビアンやクィア女性たちが仲間と出会い交流するための場として作った6つのスペースとして、レズビアンバー、フェミニスト書店、ソフトボール大会、分離主義的コミューン、女性のためのセックストイショップ、そしてバケーションスポットのそれぞれについて掘り下げる本。
このうちわたし的に一番関係があるのはフェミニスト書店で、レズビアンバーやセックストイショップにはともだちに誘われたらたまに出入りする程度、ソフトボール大会は何度か誘われて見に行ったくらいの経験で、分離主義スペースについては行ったことはないけど行った人の話はいろいろ聞いたレベル。バケーションスポットも分離主義スペースと重なる部分については少し話を聞いたことがあるけど、オリヴィア・クルーズやらディナー・ショアやらプロヴィデンスタウンにはそういうのがあると知っているだけで全然ピント来ないのでちょっとおもしろかった。ていうかお金があれば一度行ってみたいという気持ちはあるんだけど、大勢の年上の白人シスジェンダーレズビアンたちと一緒に船に閉じ込められて逃げられないのは怖い。
かつて多くのレズビアンやクィア女性たちは、経済的に支えてくれる夫もおらず、クィアであることがばれて解雇されることを恐れ、周囲の人の目に触れない出会いと交流の場を必要としていた。それがレズビアンバーやその変形であるレズビアンカフェのシーンだったり、「レズビアンではなくフェミニストなだけ」という言い訳が通じるフェミニスト系の書店やセックストイショップ、生活圏から離れた場所で行われるソフトボール大会や分離主義コミューン、バケーションスポットだった。と過去の話にしてしまっているけど、いまでもわたしと同年代以上のレズビアンの知り合いたちは毎年決まった時期にオレゴンの山中にあるレズビアン向けのバケーションスポットに行ってたりするのでなんか微笑ましい。
本書はレズビアン分離主義がトランス女性を排除していた問題や、実質的にそうしたコミュニティがシスジェンダーの白人女性だけのものであったことなどを指摘しつつ、自らこれらのスペースを切り開き、ほかの女性たちと共有してきた多くの人たちとのインタビューを交えつつ、著者本人の経験も添えて丁寧にその歴史を描き出す。レズビアンたちがバーや書店を自分たちの手で立ち上げ始めた当時はまだ女性のビジネスは銀行の投資を受けられなかったりクレジットカードを女性の名前で作れなかった時代であり、ものすごい工夫とコミュニティの支えを必要としたことは容易に想像できるし、「こうすれば女性のためのビジネスを女性自身が作ることができる」と夢とノウハウを広めたのに多くは経営的に行き詰まって廃業していった事実も分かる。
本書で扱われているスペースはほとんどが白人女性たちによって作られたスペースだが、差別や資金不足によってそうした恒久的なスペースを作ることができなかった黒人女性ら非白人のクィア女性たちやトランスジェンダーの人たちが生み出したダンスフロアなどの一時的なスペースに注目してその役割を分析したAmin Ghaziani著「Long Live Queer Nightlife: How the Closing of Gay Bars Sparked a Revolution」やKemi Adeyemi著「Feels Right: Black Queer Women and the Politics of Partying in Chicago」なども合わせて読みたい。