Amin Ghaziani著「Long Live Queer Nightlife: How the Closing of Gay Bars Sparked a Revolution」

Amin Ghaziani著「Long Live Queer Nightlife: How the Closing of Gay Bars Sparked a Revolution

インド系カナダ人社会学者の著者が、サバティカルで滞在したロンドンでクィア・クラブイベントにハマり、急遽多数の客やイベント主催者、さらには行政などに取材して書いた本。世界的にゲイバーの閉鎖が相次いでいる、クィアたちが居場所を失っている、というストーリーに対抗して、新たに生まれつつあるクィアなスペースに注目する。まあロンドンの話であることはタイトルだけで分かる(人には分かる)。

「ゲイバーの閉鎖が相次いでいる」というのはここのところずっと言われてきたことで、とくにコロナウイルス・パンデミックによってナイトライフが大打撃を受けた際には多数のゲイバーが廃業した。こうしたトレンドの理由として、ゲイであることがかつてほどのタブーではなくなり、わざわざゲイバーに行かなくてもどこでも好きなバーに行けば良くなったからではないか、という説明が与えられることも多いけれども、客が減ったわけではなくジェントリフィケーションによって家賃が高騰し、もともと利益率が高いわけではないゲイバーが一気に締め出された、というよりシンプルな説明が可能(とくにロンドンでは)。しかし目に見える数字としてゲイバーの数が減っている一方で、特定の店舗を持たずにさまざまなイベント会場を転々とするクラブイベントは増えており、特定のエスニックコミュニティを対象としたものやトランスジェンダーやノンバイナリーの人たちが中心となるものなど、多種多様なイベントが開催されている。

そうしたイベントは特定の店舗を持つゲイバーと違い公的な記録として残らないのでどれだけの数が開催されているのか、増えているのか減っているのか、どういう内容のものがどれだけの割合であるのかなど数量的に調査することが難しいけれども、実際にそれらを主催し、あるいはそれらに参加した人たちの声を集めることによって、そうしたイベントが現在のクィア・コミュニティで果たしている役割を本書は明らかにしていく。クィアたちの居場所と言われながら白人中心であったりドラァグクィーンや女性が排除されていることも多かったかつてのゲイバーに対し、多くのクラブイベントは意図的にゲイではなくクィアなスペースであろうとしているし、女性やフェム、非白人、トランスやノンバイナリーなどが中心となるイベントも多数開催されている。閉鎖されたゲイバーの数だけを数えてクィアたちのナイトライフが消滅しつつあるかのように報じるメディアや統計データだけを元に論じようとする研究者たちに対して、著者はクィアたちが新たなスペースを生み出し文化を生成する様子を描写する。

そもそも踊らないしお酒も飲まないわたしにはゲイバーもクラブイベントも縁がないのだけれど(そーゆー話をともだちから聞くことはある)、それはともかくとして、ロンドンやベルリンでは本書に書かれた通りだとしても、より地方の都市や田舎だとどうなんだろう?という気はする。とはいえKrista Burton著「Moby Dyke: An Obsessive Quest To Track Down The Last Remaining Lesbian Bars In America」やGreggor Mattson著「Who Needs Gay Bars?: Bar-Hopping Through America’s Endangered LGBTQ+ Places」と並んでクィア・ナイトライフの現在を知ることができる貴重な本。