Hunter Walker & Luppe B. Luppen著「The Truce: Progressives, Centrists, and the Future of the Democratic Party」

The Truce

Hunter Walker & Luppe B. Luppen著「The Truce: Progressives, Centrists, and the Future of the Democratic Party

バーニー・サンダース上院議員やアレクサンドラ・オカシオ・コルテス下院議員ら進歩派とジョー・バイデン大統領ら主流派の穏健リベラルが2016年に取り返しのつかない失敗を犯してしまって以来、どのようにしてお互い歩み寄り和解してきたか書かれた本。

2016年の取り返しの付かない失敗とはもちろん、サンダース議員とヒラリー・クリントン元国務長官のあいだで争われた(バイデンも立候補しようとしたがオバマに止められた)予備選挙において、民主党指導部が組織的に肩入れした結果、双方の支持者のあいだに深刻な分断を生んでしまい、共和党のトランプに大統領の座を奪われてしまったこと。しかし同年の選挙ではワシントン州からのちに党内進歩派のリーダーとなるプラミラ・ジャヤパル下院議員が初当選し、2018年にはサンダース議員の選挙運動から派生した運動からオカシオ・コルテス議員ら「スクワッド」のメンバーが当選するなど、サンダース陣営は勢力を広げていく。

2020年の大統領選挙ではサンダース議員が序盤は最有力候補と見なされるほど支持を集めたが、サウスカロライナ州でのバイデンの勝利をきっかけに(オバマが圧力をかけたおかげで)穏健派・主流派の候補が次々と選挙から脱落しバイデンへの支持を表明し、逆転勝利をおさめた。しかし2016年の失敗を繰り返さないため、バイデンとサンダースは協議を繰り返し、サンダースの政策の多くをバイデンが取り入れることで挙党態勢を築く。トランプによる選挙結果受け入れの拒否などあったものの、大統領に就任したバイデンは進歩派との約束を守ろうとするが、ジョー・マンチン上院議員ら保守系議員によって阻止される。このあたりはバイデン政権の最初の二年について扱ったChris Whipple著「The Fight of His Life: Inside Joe Biden’s White House」やFranklin Foer著「The Last Politician: Inside Joe Biden’s White House and the Struggle for America’s Future」に詳しいが、マンチンやシネマ議員が好き勝手する一方、約束を果たすことができないバイデンを見放さずに進歩派をまとめあげそれなりの成果を得たジャヤパル議員の手腕がすごい。

2022年の中間選挙では共和党圧勝の予測を覆して民主党が上院を守り、下院ではニューヨーク州の空前の大混乱に付け込まれて多数派を失った(かのジョージ・サントスにまで議席を奪われた)。しかしバイデンの後継と目されたカマラ・ハリス副大統領やピート・ブーティジェッジ運輸長官はこれといった成果を残せないまま次の大統領選挙が近づき、ガザ戦争への対応をめぐりついに進歩派と主流派の和解が破綻しそうなのが今現在。

2016年の選挙、2020年の選挙、バイデン政権の最初の二年、AOCやスクワッドの話題、ニューヨーク州のあれこれなど、それぞれ別個に読んできたたくさんの本で書かれていたことが「民主党内の進歩派と主流派の関係」という視点からまとめられてあって、いまから2016年以降の民主党の動きについて知りたい人にはお勧め。ただこれまでの本を読んできた人には、あんまり新しい話はないかも。せっかく進歩派と主流派の和解について書かれた本なのに、その和解が破綻しかけている今のタイミングで出版されたのは運が悪いとしか。